物価高でサイフの紐固いサラリーマン家計

筆者は、ファイナンシャル・プランナーとして、個人の家計に関するアドバイスを行なったり、セミナーでお話をしたりしています。その中で「よそはいくらぐらいで生活しているのでしょう?」という質問を頂くことがよくあります。


家計の収入や支出だけでなく、金融資産残高などについても、平均や一般的な水準が気になる方は多いようです。ですが、生活は十人十色。日々の暮らしや人生に「普通」なんてありません。あなたご自身やご家族が、将来にわたって納得のいくお金の使い方をするのが一番です。それでもやっぱり、平均的な金額って気になりますよね。


家計調査とは


「どうしても気になる」という方に向けて、総務省が公表している「家計調査」を参考に、2023年の家計の収入と支出に関するデータをご紹介しましょう。


本来、家計調査の結果は、国・地方公共団体や民間企業、研究所などが、国全体の家計の状況を把握して、政策や消費生活に役立てるためのデータとして使用するものです。個人が自分の家計と照らし合わせて、「多い」「少ない」と判断するものではないのですが、家計のやりくりの判断材料の1つとして参考にされることがあります。


家計といっても、世帯の人数や年齢層、働いているかリタイアしているか、などによって収入や支出の金額には幅があります。貯蓄やローンについても、家族構成によって差があります。そのため、家計調査は、調査対象を「二人以上の世帯」と「単身世帯」に分け、さらにそれぞれを、「勤労者世帯」「無職世帯」「個人営業などの世帯」に分けて集計しています。


また、「家計調査」には、「家計収支編」と「貯蓄・負債編」があります。本コラムでは、2023年の「家計収支編」で集計された概要をご紹介しましょう。


消費金額は増えたが、財布のひもは固かった


2023年の二人以上の世帯の消費支出は、1世帯当たり月平均293,997円でした。消費支出とは、税金や社会保険料を差し引いた支出額です。


2022年に比べて、名目で1.1%増えています。「名目」では、集計した数字をそのまま比較します。一方、物価変動の影響を除いて増減率を計算したものは「実質」といいます。2023年の物価上昇を考慮した実質では、2.6%の減少となりました。


消費支出が名目で増え、実質では減ったというのは、価格が上がって支払代金が増える以上に、買い控えをしていることを意味しています。消費者の財布のひもは固かったといえます。


費目別に見ると、二人以上の世帯の消費支出の10費目のうち、7費目が実質で減少。特に大きく減少した費目は「教育」がマイナス9.8%で、「家具・家事用品」のマイナス7.4%や「住居」のマイナス6.9%が目立ちます。


なお、名目では支出が増え、実質では減少した費目もあります。「食料」は名目が5.7%増えて実質では2.2%減少、「被服・履物」は名目が1.6%増加で実質が1.9%減りました。一方で、実質がプラスになったのは「光熱・水道」「交通・通信」「教養娯楽」でした。


では次に、二人以上の世帯の消費支出を世帯主の年齢階級別に見てみましょう。40歳未満の世帯は272,468円、40~49歳では323,660円、50~59歳は348,025円、60~69歳は306,476円、70歳以上の世帯では249,177円でした。いずれも1世帯当たりの1ヵ月平均です。


前年と比べると、70歳以上の世帯(実質1.2%増)以外のすべての年齢階級で、実質マイナスになりました。特に50~59歳の世帯で減少が大きく、実質6.8%のマイナス。40~49歳が実質3.0%減、40歳未満は実質2.4%減、60~69歳の世帯では実質1.3%の減少となりました。


サラリーマン世帯の収入は増えず、支出を抑えた2023年


次は、勤労者(サラリーマン)世帯の収入を見ていきましょう。二人以上の世帯のうちサラリーマン世帯の平均世帯人員は3.23人、働いている人数は平均1.78人、世帯主の平均年齢は50.4歳です。


実収入は、1世帯当たり1か月平均608,182円で、前年比名目1.5%減少、実質では5.1%の減少となりました。実質マイナスは3年連続で、その減少率は年々拡大しています。


実収入のうちの勤め先収入の内訳についての増減は、世帯主の定期収入と臨時収入・賞与、他の世帯員収入がそれぞれ名目で減少する一方で、世帯主の配偶者の収入は名目で増加しました。配偶者の収入は、少しずつですが年々増加しています【グラフ1】。



このように、2023年はまだ賃上げが浸透しているとは言い難い状況ですから、前項でお伝えした支出を抑える姿もうなずけます。サラリーマン世帯も、消費支出はすべての年齢階級で実質減少となりました。


【グラフ2】は、二人以上の世帯のうちのサラリーマン世帯の家計収支です。「非消費支出」とは、税金や社会保険料などです。



ただやはり、数値はあくまでも平均値。また、家計調査のデータは、国内の消費動向を読み取るものであり、個々の家計と比較するには適さない点もあります。


ファイナンシャル・プランナーの立場としては、平均値を使うよりも、ご自身の世帯で費目ごとの適切な支出額や目標額を見積もり、その基準に対して、使い過ぎたかどうかなどを判断できるようになって頂きたいと思っています。


詳細な家計簿をつけるほど頑張らなくても良いですが、大まかに、1年単位でどのようにお金を使ったかを振り返ることは大切です。また、振り返るだけではなく、次の1年はどのようにお金を使っていくのかの計画も立てられると良いですね。



【参考サイト】

●総務省 統計局「家計調査」

家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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