「ふつう、投資はいくらぐらいしているものなのですか?」

筆者は、ファイナンシャル・プランナーとして、個人の家計に関するアドバイスを行なったり、セミナーで話をしたりしています。その中で、一般的な家計の収支や金融資産残高について聞かれることがあります。


「よそはいくらぐらいで生活しているのでしょう?」「貯金はいくらぐらいあればよいのでしょう?」「ふつう、投資はいくらぐらいしているのですか?」といった質問です。


貯蓄保有世帯の平均は、1世帯当たり1,904万円、中央値は1,107万円


平均や一般的な水準が気になる方は多いようですが、生活は十人十色。日々の暮らしや人生に「普通」なんてありません。あなたご自身やご家族が、将来にわたって納得のいくお金の使い方をするのが一番です。


それでも「どうしても気になる」という方に向けて、総務省が公表している「家計調査」を参考に、2023年の家計の収入と支出に関するデータをご紹介しましょう。前回のコラム『物価高でサイフの紐固いサラリーマン家計』では、2023年の家計の収入と支出を取り上げました。


「家計調査」には、「家計収支編」と「貯蓄・負債編」があります。今回は、2023年の「貯蓄・負債編」から「二人以上の世帯」について、金融資産残高に関する話題をお届けします。


2023年の二人以上の世帯の貯蓄額(保険と有価証券を含む)は、平均で1世帯当たり1,904万円でした。前年に比べて3万円(0.2%)増え、5年連続の増加です。さかのぼって比較できる2002年以降で、最高額となりました。


よく言われるように、一部の資産家が平均額を引き上げており、中央値は1,107万円です。中央値とは、貯蓄を保有している世帯全体を金額の順番に半分に分けたとき、ちょうど真ん中に位置する人世帯の貯蓄額です。中央値は前年の1,168万円から減少しました。なお、貯蓄を保有していない世帯を含めた中央値は1,032万円です。


サラリーマン世帯の平均は1,474万円、中央値は895万円


二人以上の世帯のうちの勤労者(サラリーマン)世帯の貯蓄額は、1世帯当たり1,474万円で、前年に比べて34万円(2.3%)減少しました。また、貯蓄を保有している世帯の中央値は895万円で、前年の928万円から下がっています。貯蓄を保有していない世帯を含めた中央値は836万円です。


サラリーマン世帯の家計では、年収が高いほど貯蓄額が多くなっています。回答した世帯を年収の低い方から高い世帯へと順に並べて5等分した等級別に、1世帯当たり貯蓄額を見てみましょう。


年収491万円までの「第Ⅰ階級(世帯主の平均年齢52.1歳)」が876万円、年収491~637万円の「第Ⅱ階級(同49.4歳)」が1,028万円、年収637~785万円の「第Ⅲ階級(同49.2歳)」が1,283万円、年収785~1,001万円の「第Ⅳ階級(同49.4歳)」が1,666万円、年収1,001万円~の「第Ⅴ階級(同50.4歳)」が2,517万円となっています。


なお、年収による階級ごとに世帯主の平均年齢が示されています。これによると、年収が高い世帯=年齢が高いとは言い切れないことも分かります。


リタイア世帯の平均貯蓄額は、現役世代より1,000万円多い


ひところ「老後資金2,000万円問題」が話題になりました。NISA(少額投資非課税制度)では、生涯非課税限額が1,800万円。リタイア世帯の貯蓄はどのぐらいでしょうか。


うち世帯主の年齢が60歳以上の無職世帯(世帯主の平均年齢75.6歳、二人以上の世帯に占める割合は33.1%)の貯蓄額は、1世帯当たり平均2,527万円でした。前項のサラリーマン世帯の平均より1,000万円以上多くなっています。


同じく二人以上の無職世帯で、世帯主年齢を65歳以上に引き上げてみると、貯蓄額は2,504万円です(二人以上の世帯に占める割合31.7%)。年分の支出額と前年に比べて145万円(6.1%)多く、4年連続増加しています。


5歳違っても平均貯蓄額がほぼ同じです。無職の高齢者世帯は、貯蓄額を減らさないように、維持するような暮らしを心がけている様子が伺えます。


では、金融資産の内訳はどうなっているでしょうか。【グラフ1】で、サラリーマン世帯とリタイア世帯について、金融資産の内訳を示しました。



リタイア世帯は、普通預金のような「通貨性預貯金」と定期預金のような「定期性預貯金」を合計した預貯金が1,612万円、貯蓄全体の63.7%が預金です。定期預金は全体の33.4%。「株式」「債券」「投資信託」の合計は、貯蓄全体の10.4%です。


一方、サラリーマン世帯は、預貯金が61.6%で、定期預金は22.8%、「株式」「債券」「投資信託」の合計は14.5%となっています。


筆者は、どちらの世代も、いざという時におろせる資金、確実に貯めておく資金、リスク資産を程よいバランスで保有していると感じました。


年収が多い世帯は、リスク資産の割合が高い


次に、サラリーマン世帯について、先にご案内した5つの年収階級別に、金融資産の内訳を見てみましょう【グラフ2】。リスク資産にどの程度振り分けられるかは、収入に余裕があることも一つの判断材料になります。



年収が最も高い「第Ⅴ階級」は、「定期性預貯金」の割合が他の階級に比べて低く、「株式」「債券」「投資信託」を合計した割合が最も高くなっています。一方、「第Ⅰ階級」は、リスク資産の割合が最も低くなっています。


これはある意味当然のことで、まずは日々の生活に必要な資金を確保し、さらに一定額の「いざという時のお金」も必要です。そのうえで、有価証券などのリスク資産に投資をするという順序が大切。全体的には適切な配分になっていると感じます。


ただ、気になるのは、一部で「NISAはなるべく早い時期に、非課税枠をめいっぱい利用しなければ損だ」といった過激な意見を見聞きすることです。「調査結果は平均値」「家計管理や資産形成は、自分に合った方法で」とは言うものの、自分が極端なリスクを抱えていないかどうかなどをチェックするには、このようなデータを参考にするのも良いのではないでしょうか。


【参考サイト】

●総務省 統計局「家計調査

貯蓄・負債編 2023年(令和5年)平均結果の概要(二人以上の世帯)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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