【米国株インサイト】アパレル(後編):製造小売りモデルも米国発

米国は消費大国です。支出別内訳では国内総生産(GDP)全体に占める個人消費の割合が約7割に達し、5割強の日本と大きな開きがあります。


世界一の消費大国で、ブランドが発達しないわけはなく、アパレルも多彩なブランドのあるセクターのひとつです。アパレルブランドは一から育て上げるのが困難な上、ブランド自体に価値があるだけに業界内では企業合併・買収(M&A)が盛んに行われ、合従連衡が進んでいます。


前編では有名ブランドの「コーチ」を擁するタペストリー(TPR)や「トミー・ヒルフィガー」を展開するPVHコープ(PVH)を取り上げました。後編では知名度の高いラルフ・ローレン(RL)とギャップ(GPS)、アウトドアブランドが人気のVFコーポレーション(VFC)をご紹介します。


ラルフ・ローレン、トラッドが特徴の人気ブランド

米国のアパレルブランドはデザイナーの名前をそのままブランド名に使うケースが多く、「ラルフ・ローレン」も例外ではありません。企業としてのラルフ・ローレンは1967年の創業です。デザイナーのラルフ・ローレン氏が立ち上げました。


「ラルフ・ローレン・コレクション」「ラルフ・ローレン・パープル・レーベル」「ポロ・ラルフ・ローレン」「チャップス」などのブランドを通じ、アパレル、シューズ、小物、香水などを提供しています。トラッドなスタイルが特徴です。



世界的に事業を展開しており、2024年3月期の売上高に占める北米事業の割合は約44%、営業利益の比率は37%です。欧州事業は売上比率が30%、営業利益比率が31%。アジア事業はそれぞれ24%、23です。


ブランドのM&Aにはそれほど積極的ではないようで、1999年にカナダ発のアパレルブランド「クラブ・モナコ」を買収したのが目立つくらいです。ただ、2020年には新型コロナウイルスの流行に伴う業績の悪化を受け、人員削減を含む事業再編案をまとめました。20年以上にわたり傘下に置いてきた「クラブ・モナコ」の売却もその一環で、2021年に投資会社の米リージェントに売却しています。



ラルフ・ローレンを巡るM&Aでは、2022年にフランスのLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンがラルフ・ローレンを買収するとの観測が盛んに報じられました。LVMHはルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオール、ジバンシー、フェンディ、ロエペといったラグジュアリーブランドを傘下に抱える世界的なアパレル大手です。


LVMHの傘下に入るメリットなども報じられましたが、最終的に買収の観測は立ち消えています。


ギャップ、製造小売りモデルを編み出したアメカジ

ギャップは衣料品の小売店として誕生し、1969年にサンフランシスコに第1号店を出しています。当初はリーバイ・ストラウス(LEVI)のジーンズとレコードを販売していましたが、衣料品だけに特化して店舗網を広げ、1974年に自社ブランドの製品の販売を始めています。


「ギャップ」はアメリカンカジュアルの代表的なブランドと称されますが、製造小売り(SPA)というビジネスモデルを編み出したブランドとしても知られています。自社で企画して製造を外部に委託し、自社の店舗で製品を販売するビジネスモデルで、ユニクロもSPAです。


ギャップが持つブランドはメインの「ギャップ」、低価格のセカンドラインに位置づけられる「オールド・ネイビー」、1983年に買収したやや高級路線の「バナナ・リパブリック」、そして2018年に買収したフィットネス用ウエアの「アスレタ」です。


販売体制では米国、カナダ、日本、中国、台湾などに直営店を展開し、アジアや欧州、中東、中南米ではフランチャイズ方式で出店しています。


ギャップも新型コロナ流行のあおりで業績が低迷し、2021年1月期決算は売上高が前年比15.8%減の138億ドルに落ち込み、純損益は6億6500万ドルの赤字に転落しました。その後も業績は低空飛行が続き、2023年4月には1800人を対象にしたレイオフを余儀なくされました。



経営再建をゆだねる人材として白羽の矢を立てたのが、玩具メーカーのマテル(MAT)の最高執行責任者(COO)としてバービー人形部門を立て直したリチャード・ディクソン氏です。ディクソン氏は2023年8月にギャップの最高経営責任者(CEO)に就任し、経営再建を進めています。


四半期決算では業績改善の兆しも出ています。2024年2-4月期決算は売上高が前年同期比3.4%増の33億8800万ドルと小幅に伸び、純利益は1億5800万ドルと前年同期の純損失1800万ドルから黒字に転換しています。


VFコーポレーション、積極的にブランドを売買

VFコーポレーションは手袋メーカーとして1899年に創業しました。その後にシルクの下着や部屋着の生産に乗り出し、1951年にニューヨーク証券取引所に上場しています。


転機は1969年です。ジーンズメーカーの「リー」を買収してデニム部門を立ち上げ、社名をVFコーポレーションに変えています。


1986年にはジーンズの「ラングラー」、デイバッグの「ジャンスポーツ」、ワークパンツの「レッド・キャップ」を買収。2000年代に入ると、アウトドアの「ザ・ノース・フェイス」、スニーカーの「ヴァンズ」、リュックの「イーストパック」、アパレルの「ノーティカ」を傘下に収めています。


さらに2011年にはアウトドアの「ティンバーランド」とウール製品の「スマートウール」、2017年にカジュアル衣料品の「ディッキーズ」、2018年にランニングシューズの「アルトラ」、2020年にストリート系ウエアの「シュプリーム」を買収しています。


もちろん売却するブランドも多く、2019年にはジーンズブランドの「リー」や「ラングラー」などの部門をスピンオフし、コントール・ブランズ(KTB)としてニューヨーク証券取引所に上場させています。



ブランドをポートフォリオのように入れ替える戦略を採用しており、2024年3月末時点で事業部門は三つに分かれています。「ザ・ノース・フェイス」や「ティンバーランド」などで構成するアウトドア部門は2024年3月期の売上高の約53%を占め、部門利益に占める割合は62%です。


「ヴァンズ」「ジャンスポーツ」「シュプリーム」などで構成するアクティブ部門は売上高の39%、部門利益の36%を占めます。「ディッキーズ」や「ティンバーランド・プロ」で構成するワーク部門の売上比率は9%、部門利益比率は2%です。


業績は低迷しており、四半期ベースでは2024年1-3月期まで5四半期連続で赤字を計上しています。VFコーポレーションは2023年10月に発表した再建計画で、北米地域での販売強化や抜本的なコスト削減などを打ち出しています。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております