中小企業従業員向けの上乗せ制度「iDeCo+」

老後の生活準備資金に関心が高まる中、iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)は走りながら使い勝手が良くなるように少しずつ制度改正が行われています。これまでも、利用できる対象者を広げたり、対象者の掛金上限額を増額したりしてきました。


現在、厚生労働省の社会保障審議会企業年金・個人年金部会では、さらなる改正を目指した議論が進められています。そのうちの1つでる、中小企業が従業員のiDeCo利用に掛金を上乗せする制度「iDeCo+(イデコプラス)」については、適用企業の対象を広げる検討が行なわれています。


「iDeCo+」とは


「iDeCo+」はニックネームで、正式名称は「中小事業主掛金納付制度」です。中小企業の事業主が、iDeCoを利用している従業員の掛金を上乗せ助成する制度のこと。2018年5月から施行されています。


中小企業には、企業年金や退職金の制度がない会社が珍しくありません。これらの制度がなければ会社に頼ることができないので、従業員は自助努力をする必要があります。そのため、iDeCoの掛金限度額は年額27.6万円(月額2.3万円)と、企業年金のある会社の従業員より限度額が多くなっています。


ですが、いくら掛金上限が多くても、給与が十分でなければiDeCoの利用も難しいでしょう。また、中小企業が企業年金制度を導入するのもそう簡単ではありません。そこで誕生したのが「iDeCo+」です。


施行されて以降、iDeCoへの関心の高まりとともに、「iDeCo+」の実施している事業所数、利用している拠出加入者数ともに増加傾向が続いています【グラフ】。



「iDeCo+」の概要


ここで改めて、「iDeCo+」の概要をまとめておきましょう。


【「iDeCo+」の概要】

企業年金(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金)を実施していない中小企業の事業主が、iDeCoに加入している従業員の掛金に上乗せする形で、iDeCoの掛金を助成できる制度。


ここでの「中小企業」は、以前は「厚生年金加入の従業員100人以下」と規定されていましたが、2020年10月から、「300人以下」に改正され、対象の事業所が広がりました。また、「企業年金のうち、確定給付企業年金を実施している中小企業に限って、併用を認める」という改正について、2025年の施行を目指して審議しています。


制度の主な要件や内容は、以下の通りです。


・労使合意が必要

・事業主掛金の拠出対象者は、iDeCoに加入している従業員のうち同意した者(強制加入は禁止)

・事業主負担の掛金は原則として定額だが、一定の資格(職種や勤続期間など)ごとに掛金を設定することも可能

・事業主と従業員の掛金合計額は、月額5,000円~23,000円(1,000円単位)

・事業主が、事業主掛金と加入者掛金をとりまとめて納付

・税制上の取り扱いは、「事業主掛金=全額損金算入」「加入者掛金=全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)」


iDeCoは自分が加入したければ自分ひとりで始められるのに対して、「iDeCo+」は、勤務先企業が制度を導入しないと利用できません。また、勤務先企業に「iDeCo+」の制度があっても、従業員自身が「利用する」と判断して手続きをしないと始められません。


導入企業にとっての「iDeCo+」


中小企業にとっては、物価上昇などによるコストアップや賃上げなど、昨今の経済環境は必ずしも楽観的ではないでしょう。それでも「iDeCo+」を導入し、従業員の老後生活準備資金を補助するのはなぜなのでしょうか。


「iDeCo+」は福利厚生の一環です。自分たちの老後を勤務先が考えてくれていると思えば、従業員のモチベーションは上がるでしょう。老後資金準備の制度があれば、従業員は将来の金銭的な不安を軽減できます。個人的な心配ごとを減らして業務に専念できれば、企業としても業績アップにつながります。人材を採用するにあたっても、既存社員の定着にとっても、福利厚生面での充実は欠かせません。


「iDeCo+」は、退職金制度や企業年金制度を一から整えるよりも導入のハードルが低いといえます。ベースが、従業員それぞれの加入するiDeCoだからです。


ただし、企業が「iDeCo+」を導入するには、規定を作成したり、整合性が取れるように就業規則を見直したりといった作業が必須です。社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めるようにしてください。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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