暗号資産ウォッチャー これに注目!

第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」

BTC 久しぶりのフラッシュクラッシュ

 

代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は先週末19日、激しい売り圧力に晒されました。↓の東京午後の5分足チャートをみると1BTC=308-10万円辺りを割り込んだとたん、一気に20万円超も水準を下げています。久しぶりのフラッシュクラッシュ=瞬間的な暴落でした。

 

この動きについて、Bloombergは「仮想通貨急落、金融政策巡り不透明感」と報じています。この日は結局、285万円前後までBTCは対円で下値を広げています。4日前に335万円台まで買われたところからの大幅な反落は、BTC強気派をかなり失望させることにになりました。


※出所:Trading View


今回のあまりにも速い下落は、特定のニュースがきっかけと言うよりも、フラッシュクラッシュ時にありがちな溜まりに溜まった買いポジションの調整売りが出たからとも言われています。


760億円超の投げ売りが!


このような記事「Crypto market bloodbath leads to over $500M in liquidations in 24 hours(暗号資産市場の大混乱により24時間で5億ドル以上の清算が発生)」が見受けられました。


先物などを中心に蓄積された買い持ち(long)の清算(liquidations)により、合計5億ドル以上のBTC売りが持ち込まれたということです。


↓の棒グラフは、記事の中でも使用されたCoinglassという暗号資産市場の様々なデータを提供しているサイトから引用したものです。同サイトでは現物BTCの出合いやチャートだけではく、BTC先物やパーペチュアル(限月がない先物取引)の建玉、オーダー状況、そして清算データなどを知ることができます。


黄色い丸で囲んだ伸びた部分は8月19日の買い持ち清算の大きさであり、もう一つの黄丸で囲った数値は5.62億ドル(760億円超)規模のBTC売りが出たことを示しています。前述の記事では、ロングを投げざるを得なかったビットコインの投資家・トレーダーは、今回の下げで合計2億300万ドル以上を失ったとも試算していました。


出所:coinglass


さて19日にBTCが大きく売られた後、SNSなどでは、2014年に破綻したビットコイン取引所マウントゴックス(MT Gox)が影響しているとの意見もチラホラとみられました。大量ハッキング事件で被害を受けた「債権者への弁済」がそろそろ始まるとの話が一部で広まったようです。


今さら、マウントゴックス?


ビットコインや、暗号資産のハッキングについて調べると絶対に目にするのがマウントゴックスという取引所名ではないでしょうか。そして14年当時にマウントゴックスの社長だったマルク・カルプレスは、数年間はビットコインの仕組みを考えたSatosh Nakamotoと同じくらい有名だったと言えるかもしれません。


Satoshi Nakamotoの正体は明らかにされていませんが、カルプレス氏はマウントゴックス事件によりメディアに大きく取り上げられました。

 

2013年には世界最大のBTC取引所だったマウントゴックスでしたが、2014年2月までに顧客分の約75万BTC/自社分の約10万BTCなどをハッキングで失って破綻しました。原因は単純に、セキュリティが脆弱なオンラインで保管していたからだと報じられています。

 

カルプレス自身にも大きな問題があったとされ、その点についてはナサニエル・ホッパー著「デジタルゴールド」(日本経済新聞出版社)に詳しく記載されています。


出所:写真はABEMA TIMES 2018年2月2日記事より


マウントゴックス、債権者への支払い近づく


マウントゴックスは全てのBTCを抜き取られたわけではなく、約14万BTCとビットコインキャッシュ(BCH)も約14万保有していることが分かっています。BTC価格の急騰にともない、同社の破産手続きは民事再生手続きに移行されました。

 

再生手続きにより弁済の可能性が高まり、Bloombergは7月前半に「マウントゴックス債権者、弁済受領に近づく」というタイトルで報じています。

記事の中では、「一部のマウントゴックス債権者はビットコインを受け取り、一部はそれを売るだろう」という投資家の話を紹介していました。

 

約14万BTCというのは1日の取引量の約8.8%。受領した債権者たちが同じような時刻に売り続ければ、やはり市場へのインパクトは大きいでしょう。


しかしながら一気売りとなる条件が整う可能性はかなり低く、「マウントゴックスの支払いによってビットコインの価格が急落することはない No, Mt. Gox Payouts Aren’t Going to Torpedo Bitcoin's Price」という見方が海外では基本のようです。


やはりFRBの動向は無視できず


じつは、BTCがフラッシュクラッシュ前から伸び悩んだ要因は米国の金融政策に対する警戒感からでした。経済大国の金融政策を司る連邦準備理事会(FRB)は、高いインフレ率を抑えるため強めの金融引き締め姿勢を崩さないとする見方が再び強まっています。


【暗号資産よもやま話】第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」でも述べているように、今後の金融政策の行方はBTCの方向性にとって非常に重要となってきます。


8月18日には、ブラード米セントルイス連銀総裁が「インフレがピークに達したというには時期尚早」「9月会合では0.75%の利上げ支持に傾いている」と発言。現在は、金利先高観が強まれば⇒リスク資産が売られるという構図です。BTCにとっても好ましくない内容だったのは事実です。


そして金融市場にとっては8月最後のビックイベント、26日(金)にはジャクソンホール会議にてパウエルFRB議長が講演を行います。金融政策について長期的な方針を示すだけかもしれませんが、インフレと今後どのように戦っていくのかが非常に注目されます。


ジャクソンホール会議についてはこちらの動画⇒「ジャクソンホールとは?」


FRB議長の見解を金曜日のNY市場だけで消化できないことは十分にあり得ます。そうなると、土日も取引できる暗号資産の方向性が翌週以降の金融市場の流れを示すことになるかもしれません。



出所:YouTube Federal Reserveチャンネルより

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
第76回「ビットコイン、飛び跳ねた年 年明けも好材料が待ち受ける?!」
第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
第62回「再びFTXで大騒ぎ、ソラナが大幅安 一方ビットコインは底打ち期待も?! 」
第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
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第50回「ビットコイン、救世主が出現! 現物ETFへの期待高まる」
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第48回「ビットコイン SECの圧力はちょっと違う、底打ち感も?!」
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第46回「ビットコイン 動かず、過去2回はその後に大波」
第45回「G7は規制強化 交換業大手はカナダから日本へ」
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第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
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第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
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第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
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第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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