2023年に開始されたインボイス制度。一部の個人事業主が「仕事が無くなる」と反対していましたが、自分ごととはせずにそのニュースを眺めていた人も多いでしょう。ところが自分の会社が決算を迎えると、急に他人事では無くなります。これは事業会社に限らず、資産運用を法人で展開している人にとっても、とても関係のある話です。
消費税は売上1,000万円は免税「だった」
まずは消費税の基本を抑えましょう。法人の場合、前々年度に売上が1,000万円を超えていれば、消費税の課税事業者になります。消費税は「法人の税金」の印象が強いですが、個人事業主も例外ではありません。個人事業主は前々年の売上が同様に1,000万円を超えると、課税義務が生じます。
個人事業主が含まれることで、資産運用目的に個人事業を設立していたり、資産管理会社にて運用している人にとっても、自分ごとの話といえます。言い換えれば、1,000万円を超えなければ、何を目的とした法人だろうと消費税は課せられません。まず不動産を売却する場合は注意しなければなりませんが、これは「過去の話」です。
免税業者を継続した場合のデメリット
2023年に開始したインボイス制度において、(前々年度の売上1,000万円以下の)中小企業は、それまで通りの免税事業者か、インボイス(適格請求書発行事業者)に登録した課税事業者からを選ぶことができるようになりました。
インボイス制度に反対する意見は、免税業者の場合、その業者に出す取引を、取引元の会社が「消費税の仕入対象」と出来ないことが指摘されています。これにより取引先だった企業から契約を打ち切られたり、契約内容の変更を求められたりというおそれが生じています。
資産運用目的は事業ほどの影響はないが
資産運用目的で個人事業をしたり、資産運用会社を設立したりしている場合、免税業者を継続することによって事業ほどの影響はありません。免税業者を継続することで、取引業者との力関係に大きな影響が無いためです。よって今後も年間売上によっては、免税業者のまま継続するのもひとつの選択肢でしょう。ただ、ここにネックとなる2つのポイントがあります。
不動産運用の関連業者との関係
不動産運用において、家賃や敷金・礼金には消費税がかかりません。一方で「事業として対価を得て行うサービス」である仲介手数料やハウスクリーニング費用、鍵交換代などは、「事業として対価を得て行うサービス」で発生する費用であるため、消費税の対象となります。
これらの業者にとって、仕入控除にならない不動産投資家との取引は、プラスとはいえません。物件の魅力や入居状況によって契約を切る話になることは考えられないまでも、「なぜインボイスの登録をしていないんだ」というのが本音でしょう。複数の不動産投資をする投資家ならば、インボイス登録の圧力?は大きくなってくる可能性があります。
インボイスの登録をしてしまった場合
もうひとつの懸念は、インボイスの登録をした場合です。2023年にスタートしたインボイスは、法人の経営者や個人事業主の義務という喧伝をしました。その結果、「インボイスの登録をしつつも、(前々年の売上が1,000万円以下であれば)消費税の免税を受けられる」と誤解している人がとても多いです。
筆者のまわりにも、インボイスの登録をしたはいいけれど、自分は前々年度1,000万円を超えていないため、消費税の免税対象なので気にしていない、という人は複数いました。「チェックが甘い」と言われればそれまでなのですが、繁忙な毎日でカバーが追い付かないのもまた現実といえるでしょう。
かつ厄介なのは、一度課税業者の登録を済ませてしまった場合、再度免税業者に戻ることはできません。
「2割特例」の利用を検討する
次案として利用を検討できるのが「2割特例」です。インボイス制度の救済策として、売上に係る消費税額から「売上税額の8割」を差し引いて納付税額を計算します。この特例は、「インボイス発行事業者への2割特例」と呼ばれています。
引用:国税庁
個人投資家も常に相談できる税理士をつけたい
今回の件は、大規模かつ短期間で変わる税制度に納税者がついていけないことによる負担増の話です。現在国は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げて各種政策を進めています。なかにはNISAのようにポジティブでは無いものもあるでしょう。
自分ひとり、もしくは仲間うちのみで常に最新情報をアップデートするのは限界があるため、専門家である税理士に顧問を依頼することをお勧めします。ふと入念な確認が及ばなかったときに、不要な負担に繋がるのであれば、専門家の併走はコスト面としても許容されるものです。