ANYCOLORの決算を読み解く

バーチャルユーチューバー(Vチューバー)事務所の「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)が9月11日、2025年4月期第一四半期(1Q)の決算を発表しました。


同期の売上高は74億3500万円(前年同期比16.9%減)、営業利益は27億1800万円(同32.8%減)の減収減益。にもかかわらず、決算を受けて翌12日の東京市場で同社株価は終値で2397円(前日比6.3%高)を付けるなど大幅に上昇しました。


ANYCOLOR日足チャート


上昇の要因としては、一つに配当の実施が発表されたことがあると思われます。従来、無配としていた年間配当予想について、中間期末32.5円、期末32.5円と計65円の年間配当を実施するよう配当予想を修正。これが初配となる見込みです。


同社では、従来より今後3年間の間に創出する利益を原資として300億円の株主還元を実施する方針を示していました。その方法は主として自己株式の取得で対応する予定でしたが、創業者である田角陸社長の持分比率が40%超と高く、そのなかで自社株買いのみで株主還元を行っていくことで、将来的に株式の流動性が乏しくなる可能性が考えられるとして配当の実施を決めたもようです。


同社はプライム市場に上場していますが、同市場は流通株式比率35%以上が上場維持基準として定められています。前述したように創業者が4割以上を保有し、さらに長期の安定株主などもいることを考えると、市場でどんどん株を買い増していけば流通株式比率35%を割り込んでしまうケースは十分に考えられます。プライム上場維持基準を満たすため、自社株買いだけではなく配当も実施するというのは理解できます。


年間配当65円というのは同社の11日終値2255円をもとにした配当利回りで2.9%と、決して低い水準ではありません。むしろ同社のように設立から間もなく、成長が続いている企業としては無配であることも多いことから破格の利回りと言えるでしょう。


ただ、同社株が買われたのはこの配当だけが要因ではないと個人的には考えています。というのも、見た目上は確かに減収減益の決算となったのですが、中身を詳しく見ていくと決して同社の成長に陰りが見えたわけではなく、まだまだ成長が続くと期待が持てる内容だったからです。


売り上げをセグメント別にみてみます。前年同期から2けたの減収となっているのがコマースとイベント事業。コマースはいわゆるグッズ販売と考えてください。イベントはライブなどのように実際に会場などで行事を行う際の入場料などが同セグメントの売り上げにあたります。


2025年4月期1Qではこの2セグメントにおいて、それぞれ前年同期19.5%減、93.6%減と極端に落ち込んでいます。これはグッズが売れなくなったとか、ライブの集客力が落ちたということではなく、前年同期に大きなイベントなどが集中し、その反動があったことが要因です。今1Qは前年同期とは違って、イベントが極端に一時期に固まらないよう、なるべく平準化するようにスケジュールを調整したということで、期初時点の会社計画の段階でコマースセグメントでは減収を見込んでいました。また、グッズ発送スケジュールの遅延で売り上げ計上が2Q以降に繰り延べられたことも影響しています。


もう一つ、こちらの方がより大きな要因と思われますが、期初時点で計画していたイベントのうち、1件を延期、1件を中止したことでイベントセグメントは大幅に計画値を下回ることになりました。このうち中止分については純粋にマイナスの影響が見込まれますが、延期については今下期に行われる予定になっており、かつ延期前より大幅に会場の規模などを拡大して実施する予定であることから、期を通してみれば、プラス面の影響の方が大きいかもしれません。


そして企業案件などのプロモーションセグメントでは、案件単価は大きく伸長。特に7月単月では案件の大型化などにより過去最大の収益となるとなるなど、前年同期から売り上げは拡大しています。こうした要因から通期の会社計画はそのまま据え置かれており、今後も高い成長が続くとの見通しには変わりはないと市場で受け止められたことが減益決算での株価上昇につながったとみられます。


短信の1ページ目だけを見て、売上高が増えているか減っているか、利益は伸びているのか、各項目を確認することは投資するうえで重要なことです。ですが、そこからさらに一歩進み、その数字が変化した要因まで読み込めるようになると企業の解像度がぐっと上がってきます。決算短信や説明資料を読み込んで、よりその企業の実像を知ることで投資パフォーマンスも向上してくるでしょう。

日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

斎藤 裕昭の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております