ノーベル賞にドラマにスタジアム 再評価される「長崎」に注目したい

最近、九州西部の「長崎市」の話題を耳にすることが多いです。2024年のノーベル平和賞を日本被団協が受賞したほか、街が何よりも大切にする「平和」を掲げたスタジアムが完成しました。また明治時代の日本を支えた石炭の一大産地を取り上げたドラマが始まり、話題となっています。再評価される長崎は、物理的な拡大に限界が見える日本都市がどのように継続発展を目指すかのモデルにもなっています。


長崎とは

長崎は長崎県の南西部に所在する同県の県庁所在地です。2024年現在、約40万人が居住しています。2022年に西九州新幹線が開業し、交通アクセスが一段と便利になりました(九州博多駅とのあいだは一部未開業)。歴史を紐解くと、江戸時代には対オランダ・中国の公認貿易港「出島」を持つ港町として栄え、幕末の開国の折にも日米修好通商条約の開港場に指定されました。幕末や明治維新を題材としたドラマでも、貿易産業のもとで文化熟成が進み、後の明治時代の主役となる人材が青年期を過ごした街としても頻繁に登場します。


長崎を語るうえで忘れてはいけない歴史として、1945年の原子爆弾投下があります。2024年のノーベル平和賞は同市、および同じく原爆が投下された広島市を拠点に活動する「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」に受賞され、我々にとって悲惨な歴史を再確認する機会になりました。


歴史の上に積み重なった経済発展も目立ちます。長崎駅前に新設された「ピーススタジアム」は、同県佐世保市で設立されたジャパネットたかたグループが全額出資、日本一ピッチと客席が近いスタジアムとして注目されています。スタジアムのほかにタワーマンションやオフィス群、商業施設が一括して配置されました。もともとは同市を代表する三菱重工業長崎造船所の跡地が活用されました。明治の産業跡地を有効活用するという、ほかの都市にとってもモデルとなる事業展開です。


また、2024年10月にはかつて石炭の発掘場として栄え、現在は観光名所となっている端島(軍艦島)をテーマにした民放ドラマが放送され、再注目されています。これだけ多くの話題が重なったのは偶然もありますが、長崎の街が再評価され、求心力を見せているのは間違いありません。



九州の他都市と異なる特徴

実は長崎は筆者と深い関係があります。筆者の妻が長崎出身で、義理の両親が居住する街としてこれまで数多く訪問しました。中華街やオランダ色の強い街並みのほか、お盆に死者を送る「精霊流し」も観覧したことがあります。フォークシンガーで同市出身のさだまさしさんの歌でこの伝統をご存知の方も多いでしょう。


九州各市にはそれぞれ伝統がありますが、長崎には九州の他都市とは異なった表情があります。中心としてのお城が無く(天草の乱で有名な原城は長崎市内とは離れています)、趨勢を誇った戦国大名が拠点にしていたこともありません。それこそ小さな漁村だった街が江戸時代以降、貿易と開国の波のなかで独自の成長を遂げた街です。発展の歴史としては横浜市などと共通項が多いでしょうか。


拡張に限界がある街で取り組むべき歴史への投資

日本の都市の多くは十分に都市化が完了していて、大規模な拡張が難しいところが多いです。そのなかで長崎はこれまでの歴史に「再投資」をすることで、あらたな話題となっていることがわかります。幕末・明治といった従来の評価軸に、スタジアムの名称となった平和都市としての表情です。


戦争の歴史などは使い方を間違えれば、観光的な発展を期待できないどころか、大きな反感を買うことになるでしょう。長崎はその点、これまでの歴史を踏まえながらとても丁寧に進めている印象があります。



縁のある民間資力の再活用

もうひとつ特徴的なのは、先ほどのピーススタジアムにあります。スポーツ向けの大規模スタジアムを、全額一企業の投資で建設するケースは他に例を見ません。それだけ長崎の街に可能性がある点と、英断できる出資企業の存在があります。


なおピーススタジアムを建設したジャパネットたかた社の現代表は、創業者の息子です。本人も佐世保市出身です。創業者である父親が巣立った街に息子が企業を率いて投資を進めるのは、歴史を重視する長崎の姿勢と重なる部分があるといえるでしょう。地方出身の創業者が引退し、会社として創業県に戻ってくる。この部分はあらたな企業のブランディングとしても参考になるものです。


筆者もここ数年コロナ禍ということもあり、義理の両親のもとに赴くのは自重していました。2025年の旧正月、中国に縁の深い長崎が華やかになるタイミングで、「訪長」を予定しています。ピーススタジアムにも赴いてみたいと考えています。2025年冬には、また新たな取り組みも始まっているでしょう。再評価の進むなか、また新たな街の表情に気づくことができるでしょうか。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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