最低賃金1500円実現への道のり険しく

帝国データバンクは10月23日、「最低賃金と採用時の最低時給に関する企業の実態調査」(2024年9月時点)を公表しました。


同調査によれば、毎年10月に改定される最低賃金について、2024年の全国加重平均は、前年より51円高い1055円、従業員採用時の最も低い時給は平均1167円となりました。


政府は2030年代半ばまでにこの最低賃金を1500円とすることを目標していいます。また、10月27日に投開票が行われる予定の議院選挙おいても、各政党が最低賃金1500円の実現を公約に掲げるなど、1500円はもはや必達目標あるかのような空気も感じられるほどです。


しかし、持続的な賃金の引き上げは企業側からみると人件費上昇による収益の悪化などつながる場合もあります。経団連の十倉雅和会長は、10月22日の定例記者会見で「達成が到底不可能な目標は混乱を招く」とくぎを刺しており、政府と企業、そして労使間での交渉は一筋縄でいきそうにはありません。


ちなみに十倉会長は2025年春闘で「5%以上」の賃上げを求める連合の方針に関して「よく理解できる」とコメントしており、賃上げに反対なのではなく、性急な引き上げが企業経営に及ぼす影響を懸念しての発言だと思われます。


最低賃金の推移(単位 円)

帝国データバンク公表資料よりDZHFR作成


前述したように2024年の最低賃金(全国加重平均)が1055円であるということは、1500円に引き上げるためには2030年半ばまで平均4%の賃上げが毎年必要となります。2019年に901円だった最低賃金は2024年までの5年間で17%(年平均3%)上昇していますが、今後これを上回るペースでの賃上げが必要になるということで、簡単な話ではないことは理解できます。


業界別で見た採用時の最低時給(単位 円)

帝国データバンク公表資料よりDZHFR作成


従業員採用時の最も低い時給について、業種別で見てみると、「金融」「不動産」がともに1261円でトップとなっています。2位が「建設」で1249円。3位は「サービス」で1208円、4位は「卸売」で1175円となっており、ここまでが全体平均の1167円を上回る業種です。


なお、サービスのなかでも経営コンサルタントなどを含む「専門サービス」は同1313円と金融や不動産を上回る一方、「旅館・ホテル」では1037円、「飲食店」は1051円と、全体平均だけでなく2024年の最低賃金1055円も下回る水準となっており、同じサービス業種でもそのなかで差があるとしています。


地域別では、最も高いのは東京で1340円。続いて、神奈川が1277円、大阪が1269円、愛知が1208円、埼玉1205円、千葉1202円となっています。やはり都心部や関東近郊が高い傾向にあるようです。一方で、青森が984円、秋田が990円、鹿児島が991円と採用時最低時給の平均が1000円未満となる地域も見られました。


これは補足ですが、冒頭で述べた最低賃金は全国平均であり地域ごとでは異なるため、前に挙げた地域の採用時最低時給は同地域の最低賃金を上回る水準ではあります。ただ、その差は地方ほど小さく、都心に行くほど差が開く傾向にあり、最低賃金で募集してもなかなか人材を確保できないために高額で募集せざるを得ない状況も窺うことができます。


今後も賃上げの流れ自体は続くと思われますが、同時に社会保障負担の問題や、いわゆる「130万円の壁」などの制度改革も課題であるとの指摘も聞かれます。持続的な賃上げのために、企業だけでなく社会全体で問題を解決する意識が必要なのかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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