産業競争力や経済安全保障の観点で半導体産業への注目が高まる中、半導体製造装置セクターの役割が大きくなっています。象徴的な動きが米国政府による先端半導体の製造に必要な装置の対中禁輸措置で、2022年10月に事実上の規制を始動させました。
米国企業が規制の対象になるのはもちろん、日本とオランダにも追随を求め、両国はそれぞれ2023年に規制を強化しています。半導体製造装置の世界市場はこの3カ国が圧倒的に高いシェアを持ち、3カ国のメーカーの装置がなければ迅速に先端半導体を製造するのは困難です。
半導体の戦略的な重要性を背景に半導体製造装置メーカーは業容を拡大させています。特に世界的な大手は業績の伸びが顕著で、アプライド・マテリアルズ(AMAT)はこの10年間で売上高が3.5倍、純利益が26.8倍に急拡大。ASMLホールディング(ASML)は売上高が5.3倍、純利益が6.8倍になっています。先端の半導体製造装置がなければ、先端の半導体を量産することは不可能で、高度な技術を持つ製造装置メーカーの重要性は一段と高まりそうです。
アプライド・マテリアルズ、多様な装置を開発
アプライド・マテリアルズは世界最大級の半導体装置メーカーです。ディスプレーの製造装置なども生産しますが売上比率は低く、サービスも含めて半導体製造装置が中核です。
半導体製造の多様な工程に必要な装置を開発し、提供しています。ウエハーの表面に回路を焼き付けるパターン形成、ウエハーから不要な酸化膜を除去するエッチング、半導体の表面に薄膜を作って絶縁体と導体を形成する成膜工程、イオン注入工程、ウエハーの表面を研磨する平坦化工程、ウエハーの検査工程に利用する装置など多様な用途に応じた製品を取り揃えています。
特に成膜装置市場で圧倒的な市場シェアを持ちます。化学気相成長(CVD)という技術を使う成膜装置では世界首位、スパッタリング成膜装置では市場をほぼ独占しています。エッチング装置やウェハーの表面を酸化させる熱処理装置、イオン注入装置でも高い市場シェアを誇ります。
2023年10月期決算では製造装置を含む半導体システム部門の売上高が前年比4.8%増の196億9800万ドルで、売上高全体の74.3%を占めています。営業利益は1.7%増の70億9000万ドルで、全体に占める割合は79.8%です。
グローバルサービス部門は製造装置の最適化や生産性の向上、パフォーマンスの引き上げを目指すサービスです。スペアパーツの提供をはじめ、次世代の装置へのアップグレード、オートメーション用のソフトウエアの開発などを手掛けます。2023年10月期の売上高は前年比3.4%増の57億3200万ドルで、営業利益は0.2%減の16億5700万ドル。全体に占める割合はそれぞれ21.6%、18.7%です。
最大の顧客は、受託生産に特化するファウンドリーの最大手、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)(TSM)です。2023年10月期の売上高に占める割合は19%に上ります。
それに次ぐのが垂直統合型デバイスメーカー(IDM)でありながらファウンドリー事業も手掛ける韓国のサムスン電子です。売上高に占める割合は15%で、2021年10月期の20%から低下していますが、それでも十分に大手の顧客です。一方、IDMの代表格であるインテル(ITC)は2022年10月期に売上高に占める割合が10%に達していましたが、2023年10月期にはこの水準を割り込んでいます。
地域別の売上高は世界の半導体生産拠点が集中する東アジアの割合が73.9%を占めています。内訳は中国が27.3%、台湾が21.4%、韓国が17.4%、日本が7.8%です。このほか米国が15.1%、欧州が8.1%です。
生産拠点は米国とシンガポールを中心にドイツ、イスラエル、イタリア、韓国、台湾に保有します。また、世界的に築いたサプライチェーンを通じ、部品メーカーや受託生産会社などとも緊密に協力しています。
ASMLホールディング、最先端のEUV露光装置を独占
ASMLホールディングはオランダの半導体装置メーカーです。ウエハーに光を照射することで回路パターンを描くリソグラフィー工程で使用する露光装置に圧倒的な強みを持ちます。
半導体の微細化競争は凄まじい勢いで進んできましたが、リソグラフィー工程の露光は微細化のコア技術です。最先端の極端紫外線(EUV)露光装置を製造できるのは世界でもASMLホールディングだけで、この分野の独占企業です。
EUV露光は波長が13.5ナノメートル(nm)の極端紫外線を用いた半導体露光技術のことです。極めて難易度が高い技術とされ、ASMLはさまざまなハードルを乗り越えてEUV露光装置の量産化にこぎ着けています。
最先端の装置だけに高額です。2023年12月期にはEUV露光装置の販売数が53台で、売上高は91億2400万ユーロ。1ユーロ=161円で計算すると、1台当たりの価格は277億円に上ります。販売台数は前年の40台から伸び、売上高は29.5%増えています。
光源にフッ化アルゴンを用いたArF液浸露光装置は、クリプトン・フッ素を光源に用いたKrF露光装置とともに遠紫外線(DUV)露光装置に分類されます。ArF液浸露光装置は一世代前の装置という位置づけですが、2023年12月期決算では出荷数が54.3%増の125台、売上高が72.2%増の90億1700万ユーロに急拡大しています。
半導体装置の対中輸出規制で、最先端のEUV露光装置を輸出できなくなったため一世代前のArF露光装置に対する需要が高まったとみられています。ArF露光装置は微細化技術の程度で輸出規制の対象になる装置とならない製品に分かれます。
KrF露光装置も好調で、出荷数が21.9%増の184台、売上高が33.2%増の22億300万ユーロでした。一方、計測・検査機器は出荷数が30.1%減の151台、売上高が18.7%減の5億3600万ユーロと低調でした。