所得税と公的年金の改定が話題です。前者は「103万円の壁撤廃」と銘打たれ、現役世代の可処分所得を増やす取り組みとして注目されています。また後者は現在の高齢者世帯に対して、働く(所得を得る)ことに対する公的年金の減額制限を上げることで、労働報酬に対する可処分所得を上げることになる取り組みです。
このような取り組みが進むと、ライフプラン上の老後資金への向き合い方が変わるのではと考える人も目立ってきています。
在職老齢年金の改正案とは
在職老齢年金とは、65歳以上の人が一定の収入を得ると、並行して支給している公的年金の支給額が減額される仕組みです。2024年現在、収入が月50万円を上回ると、減額対象となります。
公的年金の原則は「現役世代を終えた人」であり、従来は働きながら年金を受け取るという状況は想定していませんでした。合わせて年金財政が悪化する可能性を鑑み、現役で働いている人は労働収入があるため、年金受給額を減額するという仕組みが導入されました。
ただ現状として、65歳以上で働いている人は十分な生活の安定基盤があって働いているわけではありません。将来において貯蓄が枯渇する恐れがあり、止むをえず高齢になって働いている人も多いです。そんななかで画一的に年金支給を減額する在職老齢年金には、以前から反対の声も根強いものでした。
引用:生命保険文化センター
在職老齢年金により高齢者の働く意欲がそがれているという指摘があることから、上記の50万円を60万円や71万円などに引き上げる案と、制度そのものを廃止する案を検討していることがわかりました。政府としては、2025年の通常国会に必要な法案を出したい考えです。在職老齢年金を廃止すると、その分ほかの世代に向けた年金原資が圧縮されることとなるため、その部分の調整も納得感のあるもので無ければいけません。
「老後資金の運用」と年金制度の改正
2024年秋の総選挙(衆議院選挙)を受け、社会保険制度の見直しが議論されています。在職老齢年金は高齢者への給付を拡大するため、最近話題になっている「現役世代への補助拡大」とは正反対の施策です。ただ同時並行の「103万円の壁」の撤廃議論とともに、社会保険の再構築に向けた改正案と考えられます。
NISAやiDeCoの浸透を受け、60歳からある程度の老後資産が期待できるという方も増えてきたのではないでしょうか。この時に気になるのは、これまで遵守してきたライフプランにおける貯蓄方針、そして運用方針を、社会保障制度の改正によって変えるべきなのかという視点です。
老後資金の原則はローリスク・ローリターン
老後資金の原則は、リターンは限定的だけれど、リスクを抑えるという「ローリスク・ローリターン」です。それは老後資金が必要経費であり、本来余剰資金で取り組むべきとされる投資元本とは完全に一致しないためです。
ただ65歳から仮に80歳まで銀行に預けておいたとしても、現在の日本の金利ではお金は増えません。そこでインデックスに投資し、年2%から3%を期待値に運用をしていくことが進められます。この背景には、現在の日本が向き合っているインフレ(インフレーション)への対策もあります。
公的年金制度によって老後資金の位置付けは変わらない
現在の仕組み上、現役世代が急に年金を貰えなくなるということはありません。賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出されたスライド調整率にもとづき、「マクロ経済スライド」が導入されているためです。
先日65歳から開始する受給を75歳にする繰り下げ受給がスタートしましたが、これが80歳、85歳と繰り下がる可能性はあります。早く受け取るなら60歳から、家計に余裕があるなら75歳まで先送りするので、寿命と相談してください!といった仕組みになっていくのではないでしょうか(それが出来たら苦労はしないのですが)。
今後も社会保険制度の変更は考えられますが、著しく特定の世代に不利となる改定は考えづらいといえるでしょう。ならば軸となる老後資金のロ―リスク運用はそのままに、将来を含め自分たちに関係する制度改定の情報は随時キャッチアップをしていく、という姿勢が、もっとも適切と考えられます。
2025年の通常国会は、あらためて社会保障制度の見直しが進む公算が高いです。さまざまな制度改正のなかで、少しでも家計を安定させて日々を過ごせるように、私たちは最新の状況を常に把握していく必要があります。