(最新分析)備蓄米が市場に出回ったらお米の価格はどうなるか

農林水産省は高騰の続くお米の価格が国民の生活を圧迫する事態を受け、3月10日に政府備蓄米を放出するための入札を開始しました。まずは初回分として15万トンが入札され、3月下旬から外食や小売店に出回ると予測されています。我々の生活にきわめて身近なお米の価格は、同時に飲食産業にも影響の大きなものです。備蓄米が市場に出回ったら、お米の価格はどうなるのかでしょうか。最新の見通しをお伝えします。


15万トンは5㎏袋だとどれくらいか

まず、15万トンは我々が購入することの多い5㎏だとどれくらいなのでしょうか。15万トンを5㎏で割ると、3000万袋分となります。ここで「日本におけるスーパーマーケットの数」を見てみましょう。少し古い資料ですが、日本には「22,434店舗(2020年)」のスーパーマーケットがあります(引用:一般社団法人全国スーパーマーケット協会)。


つまり、初回の備蓄米放出は単純計算すると、スーパー1件に1,300袋~1,400袋の備蓄米が届く計算です。実際はお米の直販店やコンビニエンスストアにも並びます。外食産業への供給分も含めると更に「スーパーで見かける備蓄米の量」は下がりますが、従来よりは明らかに店舗に並ぶ量は大幅に増加する規模感であることがわかります。


農林水産省はこれまでに計21万トンの備蓄米放出を放出を決定しています。価格高騰への抑制が目的ですが、過度の下落は生産者を圧迫するため、原則1年以内に同量を買い戻すことも決めています。今回の影響を分析する場合は、まず日常生活にどれくらいの量が供給するのかを理解することが大切です。



備蓄米入札から小売店で並ぶまでの流れ

備蓄米の入札には、年に5,000トン以上集荷する大手業者が参加します。産地や品種ごとに、最高額で応札した業者が落札します。落札業者は、卸をはじめとする売り先への販売数量や金額を隔週で国に報告する仕組みです。


国による備蓄米放出が価格指定ではなく、あくまで最高額の応札であることに、今後のお米の価格推移を見通す鍵があると考えられます。


ポイントになる「相対取引価格」

今後のお米の価格を占うのが、「相対取引価格」です。相対取引価格は、集荷業者と卸売業者が取引する際の価格で、2025年は玄米60キロで25,927円です(農林水産省)。精米後の小売価格ではないことに注意しつつ、この価格を5㎏あたりでみると2,160円となります。


専門家によると、相対取引価格が指標となっている以上、大きく異なる価格では入札しないのではという見立てがあります。生産者も資材や人件費の高騰に直面しているためです。ここに流通コストと小売店の利益などを足せば、現時点の5キロ4,000円から4,500円の価格帯は維持されるのではないでしょうか。


更に市場において需要過多になった商品は高騰する「市場の原理」を考えると、目安としては価格維持、状況により更に高値で応札されることも充分に考えられるでしょう。備蓄米の放出量がどれだけかというよりも、市場に入ってくるお米が相対取引価格で落札される以上、小売価格は横ばいもしくは若干の高騰が続くのではという見通しです。


2025年秋に新米が供給されたらどうなるか

備蓄米放出後もお米の価格が維持されたとして、元に戻るのはいつぐらいになるのでしょうか。可能性が高いのが、2025年の新米流通時期です。


新米と備蓄米で相対取引価格が異なる可能性

備蓄米放出は国にとってもはじめての試みになるため、次の新米流通時期に相対取引価格がどうなるかの先例はありません。農林水産省の統計は、新米・古米を区別せずに統計を取っています。


仮に新米と備蓄米が同じレートで価格付けされないとすれば、相対価格は少しずつ下がっていくことが予想されます。それによって小売価格も落ち着いていく可能性は考えられるでしょう。また現在の高騰が「新米の基準」となり、新米は高値を維持しながらも、その時点で市場に残っている備蓄米を含めた「古米」の値が下がっていく可能性が最も高いのではないでしょうか。



飲食業の株価を見るときの参考にしたい

備蓄米をめぐる最新分析は、飲食業の株価を見るときの基準にもなります。仮に「秋になって米価格が落ち着く」と考えると、飲食関連の上場企業において原価が落ち着くのは10月から12月の第三四半期です(3月決算とする場合)。


この時期の四半期報には通期決算を見据えて修正を出す企業も多くあります。備蓄米施策を通してもお米の小売価格が落ちないようであれば、下方修正を見越して株の売買をするという選択肢が生じます。企業によっては見通しを受け、「お米が原材料とならない商品」を新規開発したり、前面に出すプロモーションを強化したりするような取り組みが目立ってきます。備蓄米に期待していた関連企業の「次の一手」にも注目です。


いずれにしても備蓄米が供給されても、小売価格が短期間で落ち着くことは無いというのが最新の見通しです。お米を食する生活者として、また飲食業に目をつける個人投資家として、今後の推移を注視していきましょう。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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