山火事は火災保険の対象になるのか

2025年は各所で大規模な山火事が発生しています。2月から岩手県の大船渡で延焼したのち、3月に入り愛媛県今治市や岡山県でも火事が頻発しています。住民の暮らしにも大きな影響をおよぼす山火事ですが、このリスクに対応する補填といえば火災保険です。山火事の被害を、火災保険によって補償することはできるのでしょうか。


山火事は火災保険の補償対象ではない

一般的に、山火事は火災保険の対象ではなく、保険金を受け取ることはできません。火災保険は「火災・水害・風災など」が対象であり、偶発性の高い山火事は対象に含まれません。代わりに山火事による損害・被害を補償する保険には、「森林保険と自動車保険」があります。それぞれ見ていきましょう。


森林保険とは?

森林保険は「森林の所有者を対象(被保険者)とするもの」です。申込(保険契約者)自体は誰でもなれるものの、被保険者は森林の所有者のみです。


保険料は、以下の計算式によって決まります。属性に付保率を掛けることで保険料を算出します。


引用:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林保険センター


つまり森林保険は、昨今ニュースになっているような「住宅への延焼」を補償するものではありません。木材産業への被害に対し、経済的損失を補填する公的保険制度です。


森林保険の保険者は、保険加入する森林が所在する都道府県の森林組合、もしくは森林組合連合会です。所有する森林が複数の都道府県に分かれる場合は、本記事引用の森林保険センターが申込の受け手となります。


山林所有者の過失によって発生した隣地住宅街などへの類焼も、本保険の補償対象ではありません。



自動車保険の車両保険

森林火災に巻き込まれて所有者が破損してしまった場合は、「自動車保険の車両保険」で補償することができます。こちらは公的保険ではなく、民間の任意保険です。


車両保険には一般的な補償のタイプと、「補償範囲を限定した車両保険」がありますが、森林災害についてはどちらも補償範囲となる場合が多いです。


自動車は精密機械のため、山火事によって生じた熱波の影響で故障するケースもあります。山火事の影響を受けた自動車を修理するのか、それとも買い替えることになるかは、損害保険会社に問い合わせたうえで判断しましょう。


森林保険と自動車保険からわかることは、昨今の山火事に対し、「自動車の被害のみ」が補償の対象となることがわかります。気になるのが、これから変わることがあるか?という考察です。


山火事からの自己防衛策を考える

現状として、山火事に対する火災保険など各種保険の補償は万全とはいえません。ニュースで建物や生活への被害を見ると、早急に補償体制が広がることを願います。なお山火事の被害が重過失の場合は失火責任法における損害賠償を請求できるケースがありますので、弁護士等にご相談ください。


今後の見通しとしては、これだけ山火事が甚大被害を生んでいるため、少短(少額短期保険)における山火事保険のような新商品が発売される可能性はあります。ただ、あくまで「これからの話」です。もし発売されたとしても、保険商品のリスク分析から、すでに山火事の発生歴がある場所は補償の対象外(もしくは割高の保険料)とされる可能性もあります。


消去法として、山火事のリスクがある住居には燃えやすいものを置かない、高価なものを置かないといった生活習慣をベースとしつつ、激甚災害や災害救助法などに指定されるなどの最新状況を掴むこと、いまできる最善の自己防衛策といえるでしょう。「そんなこと言われなくてもわかっている」という状態であることが、昨今の山火事被害が持つ高いリスクを示しています。



一度建てた家を買えることの難しさ

多くの方は「山火事のリスクが確認されたから家を変えよう」と対応することはできません。住宅購入は人生で最も高い買い物であり、住宅ローンという「将来の支払い」を以って購入する買い物です。購入時(建設時)に検討されなかったリスクを後から言われても困惑します。現実的な選択肢のなかから、山火事からの防衛策を考えることとなります。


これからの少短の販売や、防災意識の高まりによって国が整備するハザードマップも随時最新版の情報ページを確認しましょう。モデル地域は少ないですが、内閣府主導で防災マップの作成も進められています。


2025年、乾燥する例年通りの環境のなかで、なぜこれだけ山火事が甚大な被害をもたらすのか、原因は定かではありません。自然災害のなかでも地震への備えは認識が進んできました。しかし、国土における山林の面積が大きい日本において山火事はどこで発生してもおかしくはない災害です。発生箇所への被害補填と同時に、国の対策や民間補償などで、対策が進んでいくことを願います。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております