進まない円安の巻き戻し
ドル円は11月20日に157.89円まで上昇したが、日本当局の円買い介入への警戒感で1月10日以来の158円台回復は失敗しました。その後は日米金融政策イベントで、12月に日銀が利上げ、米連邦準備制度(FRB)が利下げに踏み切るとの観測が高まり、ドル高・円安に調整が入るも、154円台で下げ渋っています。日米政策金利の縮小が予想されている中、一段と円の買戻しが進んでもよさそうだが、円安の巻き戻しが限られているのはなぜでしょう。
なぜ円高は限定的?
高市政権が発足し、積極財政による高市トレードの継続、財政悪化懸念も払しょくされてないのが、円の先安観を強めており、なかなか円買いが進んでいません。
また、FRBはさらなる利下げには慎重、日銀は今回利上げしても、さらなる追加利上げにもそれなりの時間を要さざるを得ないとの見方が、ドル売り円買いを躊躇させている側面があります。
トランプ政権についても関税による不透明感は多少後退したとしても、多様なリスクも存在します。日本についても、さすがに高圧経済はおかしいとの認識も強まってきており、足もとでは積極的にドルも買いづらいが、同様に円も買いづらい状況にあることも確かです。
円安、メリットとデメリット
当然ながら円安も円高も、メリットとデメリットがあります。よって、円高でも円安でも、その恩恵を受ける人や企業がいる一方で、損失を受ける人と企業が存在します。
円高とは、円の他通貨に対する相対的価値、言い換えると、円1単位で交換できる他通貨の単位数が相対的に多い状態のことです。逆に、円安とは、円の他通貨に対する相対的価値(円1単位で交換できる他通貨の単位数)が相対的に少ない状態のことです。
円安のメリット:個人としては、ドル資産など海外資産を持っていれば、その価値があがります。企業としては海外で日本製品が売れやすくなり輸出産業の利益増加、観光客増も見込めます。円安はどちらかというと企業側のメリットが大きくなります。
円安のデメリット:個人としては、輸入商品が高くなる、原油などのエネルギー資源も値上がりする可能性がリスクとなります。輸入品に頼っている日本では「生活必需品の値上げ」などに見舞われることになります。賃金などは変わらないのに出費は増え、株式などの金融資産を持っていない場合には、資産が目減りしてしまいます。企業としては、輸入コストが高くなり輸入産業の利益が減ることがリスクとなります。
円高メリット:個人としては、輸入品が安く買える、海外旅行も安く済むなどが得となります。円高では、円の価値が高くなるため「海外のモノ」を安く買えるようになります。もちろん、外貨も安く調達できるため「海外旅行」も安く済むという仕組みです。企業としては、輸入コストが安くなり輸入産業の利益が増えるのがメリットです。
円高デメリット:個人としては、海外資産に投資している場合、資産価値が下がってしまいます。企業としては、日本の輸出製品が高くなり海外で売れにくくなります。円高は個人よりも、企業と日本経済へのデメリットが大きくなります。
円安で輸入金額が膨張することを理由に、貿易赤字の主因を円安に求める向きも少なくありません。ただ、輸入金額の増加が輸入品そのものの値上がりや輸入量の増加に基づくものであれば、為替に関係なく貿易収支は赤字方向に振れやすくなります。また、円安は一方で輸出額の増加にもつながるため、円安が必ずしも貿易赤字の拡大につながるとは限りません。貿易赤字が常態化した日本が円安になれば、物価高に直結し国民生活は困窮します。



