同じ投資信託なのに、為替ヘッジ「あり」と「なし」がありますが?

「投資信託を買ってみよう」と、調べてみたら、同じ投信なのに「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジ無し」の2つのコースがあった、という経験はありませんか? これは、同じ運用対象で、為替変動リスクを抑える運用と、為替変動リスクを負う運用の違いです。また、為替ヘッジ「あり」「なし」の言葉の代わりに、「Aコース」「Bコース」と名付ける投信もありますが、中身は同じです。

 

外国証券を買うと、為替の変動に虎の子が巻き込まれる


為替ヘッジの「あり」「なし」は、主に、外国証券を投資対象にする投信に適用される運用パターンです。外国市場に上場している株式や債券、REIT(不動産投資信託)などは、基本的には価格が現地の通貨建てです。

 

外貨建てで株価などが表示される投資対象は、為替相場の変動によって、日本円から見た資産価値が上下します。たとえ株価が同じでも、為替が動くだけで時価が変わってしまうのです。これを、為替変動リスクといいます。

 

例えば、投資家が日本円を米ドルに交換し、米ドルで金融資産を持っているとします。為替相場が円高・米ドル安になると、円に対して米ドルの価値が下がり、円換算した資産価値は目減りします。

 

為替変動リスクを避ける運用が、「ヘッジありコース」


これを避けるため、投信の運用をする中で為替ヘッジの取引を行うのが「為替ヘッジありコース」です。

 

「為替ヘッジ」の「ヘッジ」は、「避ける」という意味。「為替ヘッジ」は「為替変動リスクを避けること」です。為替ヘッジの方法は、外貨建て資産に投資すると同時に、将来その外貨を円に戻す時の為替レートを予約して契約するのが一般的です。あらかじめ、いくらで円を買い戻すか決めておくので、運用を経て円高・米ドル安になっても、予約したレートで円に戻すことができます。

 

為替ヘッジは、投信の純資産の中で為替の買戻し予約がついた運用をするので、個人投資家1人ひとりが為替予約をするわけではありません。「為替ヘッジありコース」を選択して購入するだけで、特別な手続きは不要です。

 

それに対して、為替ヘッジを行わず、為替変動の影響をまともに受ける投信が「為替ヘッジなし」です。

 

為替ヘッジのしくみ


では、簡単に、為替ヘッジのしくみを説明しましょう。米国株式で運用する投信を例にします。分かりやすくするために、まずは金利や手数料を考慮せず、為替だけで説明をします。

 

1米ドル=140円の時に、基準価額が1万円の投信があり、1年後に1米ドル=140円で米ドルを円に戻す契約をしたとします。1年経って株価は変わらず、為替相場は1米ドル=126円、約1割の円高になったとします。


1割の円高・ドル安ですから、為替ヘッジをしていなければ、基準価額は9千円になってしまいます。けれども、為替予約を入れていたおかげで、契約通り投信の純資産は1米ドル=140円で円換算できます。つまり、基準価額は1万円をキープできます。

 

となると、為替リスクを嫌がる方が「為替ヘッジありコース」に飛びつきそうですが、デメリットが主に2点あります。

 

為替ヘッジにはコストがかかる


為替予約取引は、コストがかかります。基本的には、交換する通貨間の短期金利の差に相当します。単純化した図で説明しましょう。ただし、相場ですから需給の影響もあります。必ずしも理論通りではありませんが、考え方は以下の図の通りです。

 


例えば、1米ドル=140円、1年の金利が円は1.0%、米ドルは3.0%とします。1年後の円は、金利がついて1円が1.01円となるので、140円は141.4円。米ドルは1米ドルが1.03米ドルになります。この1年後の日米通貨の比率は、「141.4÷1.03≒136.99」です。140円と約137円の差額、約3円が為替ヘッジコストです。

 

「金利? 株式を運用対象にする投信なら関係ないでしょ」と思うかもしれません。いいえ、金利はお金の付加価値です。債券だから、株式だからということではなく、通貨の交換を行なって時間軸を考慮したら、その通貨間の金利差は必ずついて回るのです。外国株の投信でも、為替ヘッジありコースを選べば、運用する純資産の中から為替ヘッジコスト相当分を負担しています。

 

現在、主要国の多くが金利を引き上げる方向に動いている中、日本の低金利政策は続いています。円と外貨の金利差が開くほど、為替ヘッジのコストが高くなるので注意が必要です。

 

投信は、コストが高ければ、その分、運用成績が下がります。「為替ヘッジあり」は、同じ投信の「為替ヘッジなし」に比べて、為替ヘッジコストが引かれる分、基準価額を下げてしまいます。

 

上記の例のように、投資対象の通貨が米ドルの場合、為替ヘッジコストは日本と米国の金利差です。ユーロ建ての為替ヘッジなら、日本と欧州の金利差です。そのため、「為替ヘッジありコース」の投信の場合、どの通貨がどの程度組み入れられているのか、ポートフォリオを確認しておきましょう。さらに、その通貨国と日本の短期金利の差についてもチェックしてみましょう。

 

円安になっても為替差益が生まれない


2つ目のデメリットは、円安外貨高になっても、恩恵が受けられないことです。為替変動を抑える契約ですから、為替差益は得られません。為替ヘッジのコストを負担したにもかかわらず、リスク回避の必要がなかったという結果になります。

 

「為替ヘッジあり」は、為替による損失が発生しない代わりに、為替による利益が得られる機会も放棄するのです。

 

まとめ

結局、「為替ヘッジありコース」「為替ヘッジなしコース」の、どちらが良いのでしょうか? これは一概には言えません。リスクとリターンに対する考え方しだいです。

 

損をしたくないから「為替ヘッジあり」を選ぶなら、大きなもうけも期待しないつもりで投資をするのが妥当だと思います。

 

また、投資しようと考えている期間の為替相場の展望も、為替ヘッジの有無を判断する材料の一つになるかもしれませんね。

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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