貴金属のなかの「白金」ことプラチナが高騰しています。2025年6月10日のインゴット(金塊1g)は6,094円と、6,000円台を突破しました。プラチナなどの貴金属は株式などの相場が下落したときに反発する「有事の金」の特徴を持っていますが、6,000円台の突破は世界に大混乱を招いた2008年から2009年のリーマンショック以来です。昨今のプラチナの高騰は、今後の世界情勢に何を示唆しているのでしょうか。
米中の貿易協議長期化にプラチナが反応?
上記チャートは2025年2月から6月のプラチナの日足です。戦争リスクや政策金利リスクを反映する「有事の金」に対し、プラチナは産業界の活性化、特に半導体やハイテク株に影響力を受けます。今後シェアを高めるとみられる「次世代の半導体」がプラチナを採用しているのが1つの理由です。なお、自動車産業においてもプラチナは広く活用されていますが、不思議なことにあまり自動車業界のニュースがプラチナに影響する傾向は見られません。
関税施策の影響低下と米中協議の長期化
今回の急騰は、トランプ大統領が推し進める関税施策の影響低下が主な理由です。4月はじめに各国別に相互関税を設定し大きなハレーションを引き起こしたものの、個別交渉にて柔軟に税率を再設定し、世界各国は「交渉の余地がある」と認識しました(関税を個別交渉で頻繁に動かしていいものかという議論はさておき)。
2025年4月に一時4,600円台を割ったプラチナの価格も次第に回復していきます。ハイテク株の代表格である「マグニフィセント・セブン(マグ7)」に好決算が出ても「関税問題がどのように動くか読めない」と言いたいかのように反映しなかったプラチナも、次第に変わっていきました。
そのうえで興味深いのは、2025年6月に入って「有事の貴金属」の性格が現れはじめたことです。米中協議がロンドンで行われると発表された6月6日は245円の大幅上昇。週を明けて9日(月)に176円、10日(火)に287円の上昇と続きます。今後、短期的には確定売りの可能性を懸念しつつ、貿易協議の行き末を注視することとなります。
リーマンショックを除くと21世紀最高値となった
投資の世界は過去やこれまでの動きを「テクニカル分析」することも多いです。今回のプラチナの高騰は、過去の例でみるとどれくらいのインパクトなのでしょうか。
上記チャートにて計測可能な25年のうち、プラチナの日足が8,000円に近付いたのは2008年から2009年のあいだだけです。繰り返しますが、世界を巻き込んだリーマンショックです。8,000円と6,000円では未だ大きな差がありますが、プラチナ相場としてはリーマンショックに通じるほどの非常事態と認識しているといえるでしょう。
2025年のプラチナはどうなるのか
では今後、プラチナの価格はどうなるのでしょうか。まず関税施策は6月現在「猶予」の段階とため、この期間が終わったときにボラティリティが高まる可能性があります。また、半導体やハイテク株の活発な動きも価格形成の後押しになっていくでしょう。
そのうえで考えたいのは、「プラチナがより人気になること」です。2008年のリーマンショックという「特別な状態」を除くと、最高値となったというニュースは、次第に投資の世界に広がることでしょう。「プラチナ?金と同じような貴金属か」と付属気味に捉えていた個人投資家にとって、プラチナへの関心が広がっていくことが予想されます。それはプラチナへの投資金額の拡大を呼び込み、更なる価格上昇と、ボラティリティの高まりに繋がることでしょう。
よく「貴金属の動き」とまとめられますが、金とプラチナの動きは大きく異なります。特に半導体やハイテク株が米株として存在感を示したあたりから、金と異なる動きを見せることも多くなりました。
上記のチャートは、プラチナと同時期の金の価格推移です。重ね合わせてみると、まったく異なる動きをしていることがわかります。2025年6月に入り金は横ばいトレンドであり、プラチナのような短期間での上昇は見られません。
2024年あたりから「有事の金」という言葉は個人投資家にも浸透し、金の価格が大きく伸びました。今後は「ポスト関税のプラチナ」のような立ち位置で、貴金属への注目もアップデートされていくことでしょう。数年前から2025年は「オルタナティブの1年になる」と指摘されてきましたが、個別の貴金属が存在感を持つことで、その予測は実現化に向かっている、といえるのかもしれません。