日本銀行は、2025年6月17日の金融政策決定会合で、政策で買い入れる国債を減らす方針を続けると発表しました。そのうえで、現状で四半期ごとに4,000億円減額しているペースを2026年4月以降は2,000億円に縮小するとのことです。
改めて日銀が行ってきた2024年3月まで異次元緩和政策を振り返り、膨らんだ国債保有残高について、現状を確認しておきましょう。
そもそも日銀が大量に国債を買うようになったのは
2013年3月から10年間、黒田東彦(はるひこ)氏が日銀の総裁に就いていた時期は、「異次元」と呼ばれる、ケタ違いの金融緩和が特徴です。
白川方明(まさあき)氏が総裁を務めていた2008年から2013年3月までは、日本経済がとても難しい局面でした。円高・デフレ圧力の中、企業収益は悪化し、賃金は伸びず、金融政策に期待が寄せられながらも成果がなかなか出ない時期だったといえるでしょう。ただし、日銀による国債の買入れは、白川元総裁時代から行われていました。
黒田前総裁の初会合では、「量的・質的緩和」という金融政策が導入され、金融政策の目標がマネタリーベースの拡大に設定されました。日銀が長期国債を大量に買入れることで、民間にお金を供給するという政策です。年間の長期国債買い入れ額は、当初の約50兆円から後に80兆円規模に拡大されました。また、長期国債のみならず、ETF(上場株式投資信託)やJ-REIT(上場不動産投資信託)も買い入れました。
その後、2016年9月に「長短金利操作(YCC=イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和」へ転換。国債の年間買い入れ額が明示されなくなり、金融政策は金利水準に焦点を当てるようになりました。
【グラフ1】は、2000年3月末から2024年12月末(速報)までの、日銀が保有する国債等と投資信託の月末時点の残高の推移です。
現在の植田和男総裁は「経済・物価・賃金の好循環を見極める必要がある」と、2023年4月に慎重な姿勢でスタートしました。急激な金融政策の変更はしませんでしたが、国内で賃上げムードが高まると2024年3月にマイナス金利政策を解除。異次元緩和の3本柱だった「マイナス金利」「イールドカーブ・コントロール」「ETF買入れ」を見直しました。異次元緩和が終了し、金融政策の正常化への第一歩となりました。
日銀が国債を大量保有することの弊害
黒田前総裁時代の終盤は、異次元緩和の副作用に対する関心が高まるようになっていました。主な副作用として、以下が挙げられます。
●市場で流通する国債が減ると、自由な価格形成機能が低下する
●金利上昇で国債の価格が下落し、評価損が発生すると、日銀の財務が悪化する
植田総裁が就任した時点で、日銀は、発行済み国債の約5割を保有するほどになっていました。
国債買い入れ額の縮小(テーパリング)へ
2024年6月の日銀政策決定会合では、国債の買い入れ額を削減する方針が示されました。「QT(量的引き締め)」です。同年8月から、月間の国債買い入れ額を四半期ごとに4,000億円ずつ減らしているのが現行のペースです。
これに対し、2025年6月の会合で中間評価が行われました。2026年1~3月期までは予定通り現行のペースを続けることとし、その後は2027年1~3月期までは四半期ごとに2,000億円の買い入れへとペースを落とすという計画が発表されました。
【グラフ2】は、2024年12月末時点(速報)における、国債等の保有者内訳です。
日銀としても、買い入れ額をどこまで減らせば適切なのかという判断は難しいようです。市場関係者に意見を聞き、先の計画も1年分のみでその先は未定であることから、日銀は正常化への道を手探りしている様子がうかがえます。
今後の日銀の判断が、金融市場、財政、そして私たちの日常生活にどのような影響を与えるか、注視していく必要があるでしょう。
【参考サイト】
●日本銀行>統計>資金循環