日本は人材力で海外諸国に負けているといわれます。過去「世界一の製造立国」と尊敬された国も、最近の評判としては意思決定は遅いと揶揄されます。また新商品が出ても「あれ、これは何かの焼き直しのような」というものも増えてきました。そのなかで異質の存在がアイリスオーヤマです。上場していたらぜひ株を購入したい同社の成長の背景と、「上場している会社に同じ気概を持っている企業は無いか」を考えます。
アイリスオーヤマによる人材再活用
アイリスオーヤマは「後発」です。もともと家庭用プラスチック業界で確固たるシェアを獲得していた同社は、2009年に家電に本格参入します。高品質の商品とインパクトのあるCMで存在感を高めています。その立役者となっているのは、Panasonicやシャープ、三洋電機などの大手メーカーを退職した50代から60代のシニア人材です。まさに製造立国を担っていた人材です。
2012年、海外勢に押された日本の製造メーカー各社は、大規模なリストラを実行しました。2015年にも実施されたリストラによる人材流出を逃さず、大阪に家電開発拠点の「大阪R&Dセンター」を設立しています。この方針は同社の家電事業を加速させ、2018年に東京の拠点も設立しています。そして若手俳優を前面に出したブランディング効果で、一般家庭にも知名度を高めました。その俳優が不祥事を起こした際も、一貫して支える判断をし、更に評価を高めた経緯もあります。
新製品開発は他社の2倍の速さ
同社経営陣によると、年間1000点以上の新商品を発売しており、企画から新商品の発売までは「他社の約2倍の速さ」になります。よって確実に時流を掴み、アイデア性に溢れた商品を次々と展開できるのです。また臨機応変に対応できるように、中国の工場は常に3割の空きスペースを確保しています。
中国や台湾など勢いのある企業を特集する際、メディアは意思決定の速さを日本企業と比較します。日本の企業が「前向きに検討します」と結論を先送りにしているあいだ、海外勢は商品を出し、マイナス面も含めた実績を回収し、次の展開に繋げています。その視点では、アイリスオーヤマは「海外勢のスピードを身につけた日本企業」といえるでしょう。
非上場で投資できないアイリスオーヤマ
投資メディアとしては注目の銘柄ですが、残念ながら同社は非上場のため、投資することができません。ただ、諦める以外の選択肢があります。
ここ数年、同社のノウハウと展開力は経済界で注目されています。開発方式など公開されている情報も多く、類似企業にとっては目から鱗の「アイリス方式」です。ならば同社のノウハウを活用して、製造ノウハウを再構築している企業に注目しましょう。
通期決算や四半期報から、製造領域の見直しや再投資などを調査することができます。もともと稀有なアイデアと人材力のあった企業であれば、ノウハウを活用することによって1年、もしくは2年後には業績に反映されていくことでしょう。同様にして大きくなったのが高度経済期の自動車産業であり、2000年代に入ってからのインターネット業界であったと考えています。
かつ、まだ業績に反映されていない段階ですが、株価は安いです。割安株として仕込み、成長を待つのは個人投資家としてもっとも腕の鳴る部分です。「次のアイリス銘柄」を見つけるポイントは以下の3点です。
(1)アイデアの着想力
アイリスオーヤマの製造ノウハウを真似しようと、その企業にアイデアの着想力が無ければ魅力的な商品を開発することができません。これまでの実績や商品ラインナップから、世の中に求められているかを判断します。また、その挑戦が時代に応援して貰えるかも理想です。理想は「花札」からテレビゲームを開発した任天堂といえるでしょうか。
(2)アイリス式の導入を受け入れる経営陣
従来のやり方から方針転換をするのも勇気が必要です。それをできる経営陣がいるのかも1つの判断材料になるでしょう。「ポムポムプリンに見る強い二代目」で取り上げたサンリオは、若い後継者がコンサルタントを入社させて取り組んだ社会改革が功を奏し、いまや過去最高の売上を叩き出しています。経営陣の構成や代表者のメッセージなどから、我々は「この企業は変わることができるか」の可能性を吟味することができるでしょう。
(3)人材の確保力
「アイリスオーヤマは日本の大手製造業のシニア人材を運良く集められた」と結果論で評論することは誰にでもできますが、先行投資で研究拠点を展開したことは素晴らしい経営判断だったと思います。ただ、いまは製造業を中心に背景が異なります。人材市況も含めて、李リアルタイムで人材を集められた企業が次の勝ち組となるでしょう。
少数の企業で期待値を分け合うアメリカのマグ7などを見ると、一人勝ちをしそうな企業が非上場経営だったことは、割安株を探す私たちにとってもチャンスといえるでしょう。ベンチマークをもとに先読みをする企業を早々に見つけ、支援していきましょう。