中国の実力は国際的に見てどの程度のものなのか?国の実力を測る絶対的なランキングがあればわかりやすいのですが、視点が違えば順位も違ってきますので、今回は国際特許の出願件数から中国企業の実力を見ていきたいと思います。
国際特許出願件数で中国は世界1位
下のグラフは、世界知的所有権機関(WIPO)に提出された国際特許の出願件数の推移です。国際特許の出願件数は、「イノベーション力」を図る指標としてよく利用されています。
中国は2000年代までは日米に大きく水をあけられていましたが、2010年代に入ってからの躍進はめざましく、17年に日本を抜くと、19年には米国も追い抜いてトップに立っています。
この数字は、あくまで特許の「申請」なので、すべて特許として認められて登録されるわけではありません。また、特許の内容についても、その有用性や価値の判断まではできません。ただ、出願件数が多いということは、それだけの多くの発明が生み出されているということを意味します。中国政府は、イノベーションこそが国家の発展にとって最大の原動力になるとして、2035年までに世界トップレベルの「知財強国」を目指すとの国家戦略を掲げ、企業の研究開発を支援しています。
特に人工知能(AI)やブロックチェーン、再生医療、自動運転などの新技術を積極的に支援しており、こうした分野で多くの特許が出願されています。今後、中国がこうした高い成長性が期待されるテクノロジー分野で、技術力を背景に世界をリードしていく可能性が高まっているのです。
企業別では中国の華為技術がダントツのトップ
次に、同じくWIPOに提出された特許の出願件数を企業別に見ていきましょう。2005年には出願件数トップ10に中国企業は1社も入っていませんでしたが、2010年代には中国を代表する通信機器メーカーの中興通訊(ZTE:00763/000063)と華為技術(ファーウェイ)の2社がランクインし、直近の2021年を見ると、中興通訊と入れ替わる形で、大手スマートフォンメーカーのOPPOと中国のパネル最大手、京東方科技集団(BOE:000725/200725)が入ってきています。
とりわけ、民営企業でありながら、通信機器で中国最大手である華為技術の躍進が目立ちます。華為技術は2007年に初めてトップ10入りし、その後、2017年から2021年まで5年連続で首位。2021年の出願件数は前年比27%増の6952件に達し、出願件数は2位のクアルコム(3931件)の約1.8倍を記録しています。単純計算で1日当たり19件もの特許を申請していることになります。
華為技術の年間研究開発費は2.9兆円、売上高の22%
これだけの特許を出願するには、いったいどれだけの研究開発費が注ぎ込まれているのでしょうか。華為技術は未上場企業ですが決算報告書を公表していて、研究開発についても記載があります。それによると、2021年の研究開発費は1427億元(約2兆8800億円)に上り、売上高の22.4%を研究開発に投じているというのです。
この水準は、ブルームバーグの報道によると、アマゾン・ドット・コムやグーグルの親会社アルファベットのほぼ2倍、アップルの3倍を超える水準といいますから、どれだけ研究開発を重視しているかが分かります。この背景には、華為技術が米国からの制裁を受け、半導体などの先端部品を外部から調達できなくなり、独自での研究開発を強化せざるを得なくなったという事情もあります。
こうした事情は華為技術だけのものではありません。米国が制裁を強化すればするほど世界の分断が進み、中国は米国に頼らない独自技術の開発を強化する方向に進んでいます。米中対立の先行きは見通せませんが、米国による制裁は逆に中国の技術力を高めることにつながり、中国の「知財強国」実現の日を速める結果になっているのです。