中国株投資を始めるためのキーワード

「上場廃止問題」:中国企業のADRにリスク再浮上、香港証券取引所の役割に期待

米国と中国の対立が激しさを増す中、ベッセント米財務長官が先週、中国企業を米国の証券取引所から排除する可能性を示唆したことで、香港市場では最近、米国預託証券(ADR)を発行する中国企業の米上場廃止リスクが再び注目を集めることとなりました。


2021-22年にも上場廃止問題、HFCAAが発端

中国企業のADRを巡っては、2021-22年にも上場廃止問題が浮上したことがあり、今回が初めてというわけではありません。前回の経緯を簡単に振り返ってみると、第1次トランプ政権時代の20年12月に成立した「外国企業説明責任法(HFCAA)」が事の発端。名指しこそしていませんが、中国など外国当局の反対により、米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)が米国に上場する外国企業を担当する監査法人を定期的に検査できない状態が3年続いた場合、米国証券取引委員会(SEC)は同企業の上場を廃止できる権限を持つというもので、HFCAAによって多くの中国企業が上場廃止のリスクに直面しました。


その過程で、生保大手の中国人寿保険(02628/601628)のほか、石油メジャーのペトロチャイナ(00857/601857)、シノペック(00386/600028)と傘下のシノペック上海石化(00338/600688)、アルミ大手の中国アルミ(02600/601600)の国有企業5社が自主的に上場廃止を決めていますが、最終的にはPCAOBが監査資料にアクセスすることを中国側が受け入れ、多くの中国企業の上場廃止を免れています。


中国概念株、大部分は香港上場済みで影響は限定的か

資産や収入源は中国にあるものの、中国本土以外で上場している中国企業のことを中国概念株(チャイナ・コンセプト・ストック)と呼びますが、UBSのまとめによると、現時点で米国市場に上場する中国概念株は約230社あり、時価総額は4600億米ドルと21年末の1兆1000億米ドルから大きく減っています。


UBSは今回の上場廃止問題について、前回(2021-22年)と比べると、影響は限定的との見方を示しています。理由として、大部分の中国概念株はすでに香港市場への重複上場を果たしていること、重複上場する銘柄の時価総額に占める香港市場の割合は約60%と過去3年間で30ポイント上昇していることなどを挙げています。また、「港股通(南向き取引、相互取引制度を通じた中国本土からの香港株売買)」が時価総額に占める割合も21年の5%から現在は11-12%に拡大していることもあり、影響は比較的小さくなるとみています。


モルガン・スタンレーも、短期的には影響が予想されるものの、長期的には影響をコントロールすることが可能とみています。というのも、MSCI中国指数にはアリババ集団(09988)やJDドットコム(09618)をはじめ、消費やEコマースを中心に23銘柄が採用されていますが、そのうち19銘柄(83%)がすでに香港市場への上場を果たしていることなどを理由として挙げています。


港股通対象銘柄は中国本土からの資金流入も

一方、上場廃止が決まった後については、香港市場が重要な役割を果たすことになるとの期待が高まっています。モルガン・スタンレーは、アリババ集団や理想汽車(02015)はすでに港股通の対象となっていることもあり、中国本土からの資金流入が期待できると指摘。また、米上場廃止による短期的な影響を緩和させるため、中国当局は香港市場への上場や港股通の対象となるための手続きを加速させるとみています。


UBSは、米国で資金調達を行う中国概念株が減少する中、香港証券取引所(00388)が中国概念株向けにセカンダリー上場のガイドラインを公表している点に言及。中国のネット通販大手、PDDホールディングス(PDD)や、中国の「トラック版Uber」とも呼ばれる満幇(YMM)は現時点で香港市場には上場していませんが、いずれもセカンダリー上場の基準をクリアしており、上場廃止問題の行方によっては、香港市場で取引ができる中国概念株が大きく増える可能性もありそうです。





この連載の一覧
「上場廃止問題」:中国企業のADRにリスク再浮上、香港証券取引所の役割に期待
「初のブル相場」:上海総合指数は99日続伸や105%高を記録
「ナタ2」:空前の大ヒット、興行収入は160億元到達の予想も
「胖東来」: 中国で「小売業の奇跡」と称賛される地方都市のスーパーマーケット
「栄耀」:華為から分離・独立、株式制改革完了で上場に現実味
「一簽多行」:深セン住民を対象にマルチビザの発給開始、香港経済回復を後押し
「打風不停市」:悪天候下での通常取引、初回は混乱なく通過
「上海証取の株券ペーパレス化」:世界に先駆けて実現
「新中国の証券取引所の誕生」(その2):“正式開業”は上海が第1号
「新中国の証券取引所の誕生」(その1):“営業開始”は深センが第1号
「市場介入の始まり」:投機熱抑制と相場救済
「先A後H」:A株企業の香港上場、美的集団で注目 新たなトレンドに
「証券口座の開設者急増」:中国で株式投資ブームが再来?
「香港小売業」:かつての「買い物天国」、中秋節・国慶節で巻き返しに期待
「無人タクシー」:商業化に熱い期待
「プライマリー上場切り替え」:アリババ集団が手続き完了、本土投資家も近く投資可能に
「蘋果概念株」:iPhone16発表控え再注目、代表銘柄に瑞声科技やBYDなど
「パンダ寄贈」:国慶節に香港へ2頭、経済効果に期待高まる
「中国股民の誕生」:冷淡から熱狂へ 1990年の株式投資ブーム
「相互取引制度」:本土投資家は香港株に、海外投資家はA株に投資が可能 制度の整備進む
「新中国の証券取引市場の誕生」:発行市場の広がりで流通市場が生まれる
「中国恒大集団」:本土不動産子会社に罰金、仲介機関や監査事務所にも波及
「新中国の株券の誕生」:株式制度の原点からのスタート
「金と中国」:人民銀は21年11月から買い増し継続、産金株は高値更新相次ぐ
「万科企業」:中国不動産市場と資本市場発展の縮図
「白名単」:融資に適した不動産プロジェクトを集めたホワイトリスト
「中国不動産市場の誕生」:1980年代に初の分譲物件
「景勝地運営」:上場企業を通してみる中国観光地、黄山や玉龍雪山など
「辰年相場」:過去4回は平均14%上昇、風水では年後半に上昇か
「映画市場」:23年興行収入は4年ぶり高水準、国産映画が圧倒的存在感
「胡潤百富榜」:英会計士が趣味で始めた長者番付、トップは農夫山泉の会長
「三条紅線」:不動産企業が超えてはならない3本のレッドライン
「シグナル8」:台風襲来で取引停止、制度見直し議論本格化
「中国人民銀行」:中国の中央銀行
「中央1号文件」:新年最初の政策文書 20年連続で「三農」がテーマ
「房住不炒」:不動産投機を封じ込む中国の不動産政策基調
「人口問題」:61年ぶり人口減、かつては第2子で高額罰金
「香港証取の2通貨建て取引」:人民元グローバル化推進の一環
「一線都市」:近年は「新一線都市」も登場
「新エネ車」:高まる中国の存在感 BYDは日本進出
「明星株」:台湾歌手の関連銘柄が香港デビュー
「国務院」、最高国家行政機関
「中央経済工作会議」、経済関連の最高会議
「広州交易会」:年2回開催、貿易動向を占うバロメーターとして注目
「n中全会」、5年間に7回開催の重要会議
「共産党大会」、事実上の中国の最高指導機関
「最低賃金」:地域ごとに決定、上海は月給が10年で6割増
「結婚事情」:婚姻件数激減、背景には中国古来の固定観念?
「失業率」:若年層は5人に1人が失業、諦めムードも
「全国政協」、全人代と合わせて「両会」
「全人代」、国家最高権力機関
「中国の祝日・イベント 」:国務院が祝日スケジュールを年末に発表、近年は「独身の日」も台頭

中国株情報部 アナリスト

竹内 なつ子

大学卒業後、日本の証券会社に勤務。中国・北京での語学留学を経て、日系証券会社の上海駐在員事務所や台湾の会計士事務所で翻訳業務に従事。2級FP技能士。

竹内 なつ子の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております