投資ビギナーのための「配当性向」入門

近ごろ、「配当性向100%」という目標を掲げる上場企業を見るようになりました。配当性向とは、事業活動で生み出した利益に対する株主配当金の割合です。「100%って、利益を全部吐き出してしまうことだけれど、大丈夫なの?」と驚くかもしれませんね。


配当性向に関する受け止め方は、投資家と従業員など、立場によって異なる場合があります。配当性向の基本をわかりやすく解説します。


配当性向とは


配当性向は、株主還元策に関する代表的な指標です。純利益に対する株主配当金の割合で示します。数値が高いほど株主に還元する姿勢が強く表れていると判断され、一般的には好感されます。株主配当金は、企業が事業で得た利益の一部を出資者である株主に分配する現金です。



配当性向からは、企業の配当に対する意欲を読み取ることができます。配当性向の適正な水準は、業種によって異なります。上場企業全体では30%~50%程度が一つの目安です。


近年は「配当性向100%」などの高い目標を掲げる企業が増えています。その背景には、2023年3月に東京証券取引所が上場企業に対して発信した「資本コストや株価を意識した経営」の要請があります。これにより、余剰資金を成長投資や株主還元に振り分ける動きが強まりました。


高い配当性向を可能にする企業は、事業が成熟し、新規の大きな成長投資が不要な場合が多く、安定的に配当できる可能性があります。


一方、一時的に利益が増え、例年と異なる財務状況になったために例年より多くの配当を実施した結果、配当性向が高くなったというケースもあります。ただしこの場合の特別利益は毎年続くわけではないのが通常で、翌年以降も高い配当性向を維持できるとは限りません。


配当性向が高すぎる場合の注意点


ただし、配当性向が高すぎる場合は注意が必要です。


利益の大半を株主に分配すると、その分だけ企業内部に資金を蓄積できなくなります。成長投資を怠ると、事業の持続性が損なわれる可能性があります。


さらに、配当性向が100%を超える場合は、利益以上に現金を配当しているといえます。内部留保を取り崩したり借入金を使ったりしていることが考えられます。これは企業として健全とはいえません。営業利益が落ち込んでいるにもかかわらず、減配を避けたいがために無理な配当をしているとしたら、ますます事業を弱めるリスクがあります。


また、キャッシュフローに見合わない配当をしている場合も要注意です。会計上の利益が出ていたとしても、キャッシュが不足していたら配当を支払うのは困難です。営業キャッシュフローがプラスであるかどうかを確認しましょう。


同様に、十分な自己資本を持ち、健全な水準の自己資本比率かどうかもチェックポイントです。


成長段階にある企業の場合は、高い配当金を支払うより資金を成長投資に回した方が良い局面もあります。株主への配当でキャッシュを外部に出してしまうと、企業価値を高めるための投資資金を十分確保できなくなります。


一時的に配当性向が100%になったのであれば、その理由を確認しましょう。「高い配当性向を維持できるのか」、「資金繰りは健全か」「成長投資が必要ではないのか」などの観点でIR情報を見てみます。高い配当性向は、一見すると株主重視ととらえることができますが、成長を阻害していたり事業基盤を弱めていたりしているとしたら、とても危険です。


従業員から見た高配当性向


高い配当性向目標を掲げる企業では、従業員から「株主ばかりが優遇されているのでは」という声が出ることがあります。しかし、これは誤解によるものです。


損益計算書における利益は、「売上高」から人件費を含めた「経費」を差し引いて算出されます。つまり、従業員への給与や福利厚生費は、利益配分の前の段階で既に確保されています。そのうえで、残った利益を株主と企業内部に配分します。


適切な株主還元は、市場からの評価向上(株価上昇)や企業の信用力・資金調達力の向上につながり、結果として従業員の働く環境改善や設備投資・研究開発による利益還元にもつながります。短期的には株主向けに見えても、中長期的には従業員の利益とも一致するのです。


【関連記事】

●いまから投資「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

石原 敬子の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております