3月期決算企業の中間決算発表が、ほぼ出そろいました。従来、投資判断では売上高や利益の増加率が重視されてきましたが、近年は「資本をどれだけ効率的に活用しているか」という点にも関心が高まっています。
東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請
売上や利益の成長だけでなく資本効率も投資判断の重要なポイントになっている背景には、東京証券取引所による市場改革があります。一般に「PBR(株価純資産倍率)改革」とも呼ばれているもので、資本コストや株価を意識した経営を促す取組みです。
東証は2023年3月に、プライム市場とスタンダード市場に上場する企業に対して企業価値の持続的な向上に取り組むよう、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求めました。
具体的には、PBR1倍割れの企業などに対して、中長期の価値創造に向けた改善策を開示・実行するように要請しています。PBR改革の狙いは、日本企業の競争力を強化し、日本市場の活性化を図ることです。海外の投資家から見た日本の企業は、効率的に株主資本を活用して利益を生む能力が低いとされ、企業価値を高めて日本の株式市場の魅力アップにつなげようとしています。
持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けて
東証の要請によって、余剰資金を成長投資や株主還元に振り分ける企業が増加しています。研究開発投資や人的資本への投資、設備投資、事業ポートフォリオの見直しが進めば、企業の持続的成長につながります。
また、中期経営計画や統合報告書などのIR(投資家向け広報)に積極的な企業も増えてきました。モノクロで財務諸表が中心の法定開示資料だけでなく、カラフルで図表を多用して訴求力の高い独自のIR資料や、ホームページに事業内容を紹介する動画を掲載する企業が増えてきました。
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」への取組みは、企業ごとに独自の方法で実施することとされ、投資家に向けてわかりやすい方法で情報開示をし、さらに投資家との積極的な対話を通じて取組みをブラッシュアップしていくようになっています。
東証は、以下のようなプロセスで取組みを要請しています。
●現状評価:資本コストや資本収益性を把握し、市場からの評価も含めて分析・評価する
●計画策定・開示:改善方針や目標、計画期間などを投資家にわかりやすく開示する
●取組みの実行:資本コストや株価を意識した経営や投資家との積極的な対話を行う
●進捗状況と分析の開示:進捗状況と分析を年に1回以上アップデートする
2025年9月末時点で、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示を行っているプライム市場上場企業は1,474社で、9割以上が開示済み。そのうち1,054社が進捗状況の開示をアップデートしています【グラフ1】。

スタンダード市場上場企業は約半数である764社が開示を行っており、そのうち333社がアップデートしています【グラフ2】。

企業の取組みや進捗に注目
企業は、下記のような代表的な指標を使い、例えば「資本コストを上回る資本収益性を達成できているか」や「PBRが1倍を割れて(=市場からの評価が低い)いないかどうか、またその要因は何か」などの評価・分析を開示しています。
【資本コスト】
WACC(負債-株式の加重平均資本コスト)
株主資本コスト(投資者の期待リターン) など
【資本収益性】
ROIC(投下資本利益率)
ROE(自己資本利益率) など
【市場評価】
株価
時価総額
PBR(株価純資産倍率)
PER(株価収益率) など
個人投資家としては、この流れに乗って、気になる企業の中期経営計画や統合報告書、IR動画などを積極的に活用するとよいでしょう。財務諸表を読み解くのはハードルが高いと感じる方でも、わかりやすさ重視のこれらの情報は活用しやすいと思います。
また、これらの指標は、企業が自社の価値を高めるために設定し、分析や評価を行っているものです。したがって、個人投資家の皆さんにも投資判断の参考になるのではないでしょうか。
【参考サイト】
●日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」
●東京証券取引所上場部『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2025年9月末時点)』



