先日、日本経済新聞が「大手金融機関が仕組み債の販売を制限する」と報じました。※『みずほ・三井住友「仕組み債」販売制限 顧客の損失懸念』(日経電子版2022年9月15日更新)
「ようやく廃番か?」という感があります。仕組債が個人投資家に向けて販売されるようになって約30年。「損をしたくない」「なるべく目減りしたくない」、でも「少しでも儲かりたい」という、投資家の微妙な気持ちを揺さぶりながら販売されてきました。
今回は、「仕組債」について説明します(日経新聞では「仕組み債」と表記していますが、業界では「仕組債」の表記が多いため、以後は「仕組債」とします)。
普通の債券は、何事もなければ償還日に額面金額が返ってくる
通常、普通の債券は償還日(満期日)に額面金額が投資家に返される金融商品です。債券の発行体(国や会社)の側から見ると、投資家から資金を借り、償還日に返済する契約です。発行体は、償還日までの間、あらかじめ決められた日に投資家に金利を支払います。
投資家にしてみると、債券は、定期的に金利を受け取れ、償還日に額面金額が返ってくる資産運用です。発行体が破綻しなければ額面通り償還されるので、安全志向の投資家に好まれます。
ところが、円建ての金利は長いこと低いまま。リスクを取ることができず、元本保証にこだわる人は、満足できる預け先がありません。そこで、「損をしたくない」「なるべく目減りしたくない」、でも「少しでも儲かりたい」というニーズの受け皿として利用されてきた金融商品が「仕組債」です。
仕組債の苦情と問題点
では、仕組債とはどのような金融商品なのでしょうか。説明の前に、金融庁が作成した「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(令和4年6月30日)の中で挙げられた苦情を紹介し、それに対して解説をしてみました。
これらの苦情の背景として、金融庁は、商品性と販売体制の両面で問題があるとしています。金融庁と証券取引等監視委員会が販売実態を総点検することになりました。
このような経緯で、冒頭の記事のように、個人顧客に積極的な勧誘を控えたり、販売を停止したりする金融機関が出始めました。しかし、全ての金融機関が販売を止めたわけではありません。一部のネット証券などでは、高金利を強調した仕組債の案内が前面に打ち出されています。
「仕組債」は、複雑なシステムを仕組んだ債券
仕組債は、証券会社や投資銀行などがアレンジする企画商品で、商品コンセプトに応じて、幅広い設計が可能です。「仕組」とは、先物取引やスワップ取引、オプション取引などのデリバティブ(金融派生商品)を組み込んでいることを意味します。他社株転換条項付き債券(Exchangeable Bond=EB)、日経平均株価リンク債などが代表的な仕組債です。
デリバティブを使った「仕組」によって、あらかじめ、将来の取引を約束できます。債券に、日経平均株価や為替相場、個別株式などの値動きに関する条件をつける形が一般的な仕組債です。償還までの間にその条件を満たすか満たさないかによって、償還のパターンが変わるという特徴を持つ債券です。
例えば「日経平均株価が、評価日に運用開始時より3割以上の値下がりをしていなければ、投資元本と同額で償還。もし3割以上下落していたら、7割の金額で償還する」といった条項がついた債券です。しかも高金利。円建て債券で年利10%も珍しくありません。
「3割に満たない値下がりであれば、元本保証です」と説明され、その上、パンフレットには大きく「年利10%」と書かれていたら、「3割も下落するなんて、めったにないだろう」と、都合の良く解釈してしまい、うっかり購入してしまうのでしょう。
高金利と「何となくありえない水準」がミソ
この例を、図で見ていきましょう。日経平均株価が28,000円の時に仕組債がスタート。金利は年10%、運用期間は1年。3割下落したら19,600円です。みなさんは、この先1年の間に、日経平均株価が19,600円まで下がることがあると思いますか? 「3割下落」というとありそうな感じがしますが、「日経平均が19,600円」というとかなりの下落という印象ではないでしょうか。
もし評価日に19,600円まで下がらなければ、投資した100万円が償還され、年利10%の金利がつきます。
この例では、評価日に日経平均株価が3割以上の下落をすると、たとえその後回復しても、償還金額は約束通り額面の7割です。100万円で購入したら元本は70万円になってしまいます。飛びついた「高い金利」でも、元本の目減りを埋め合わせる額ではありません。
「損をしたくない、でも儲けたい」が招いた劣悪品
「理解できないものに投資をしない」は、資産運用の基本です。みなさんは、デリバティブを使って設計された、上の例の「仕組」を理解できたでしょうか。
なお、上の例は、かなり単純な仕組債です。下回る基準価格(ノックイン価格)だけでなく、上回る基準価格(ノックアウト価格)が設定されるものが大半です。償還方法は1日限りの「評価日」で判断するのではなく「評価期間」であったり、現金のほかに現物株式で償還される条項だったり、償還日前に運用が終了する「早期償還条項」がついたりする仕組債が一般的です。
デリバティブを使い、複雑化した金融商品は、手数料が高くなります。また、条項に従って早期償還されれば、顧客に次の金融商品を案内し、金融機関は自然な形で回転売買ができます。見た目は高金利で、なんとなくリスクを抑えた感じがする仕組債は、じつは金融機関にとってオイシイ商品なのです。
けれど私は、顧客の側にも問題があるのではないかと感じています。高すぎる金利に対して、疑問を持たずに飛びつくのはいかがなものでしょうか。苦情のなかには「銀行に勧められたので」「購入させられ」とありますが、意思の確認もなく無理やりサインさせられて購入したのでしょうか。
「損をしたくない、でも儲けたい」というニーズに合う商品が開発され、提供される裏には、リスクとリターンに対する顧客の認識の甘さもあるのではないかと感じています。厳しいでしょうか。
【参照】
●金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(令和4年6月30日)
●金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2022」(令和4年5月27日)
●日経電子版(日本経済新聞社)『みずほ・三井住友「仕組み債」販売制限 顧客の損失懸念』