SpaceX(スペースX)の上場(6月12日予定)が間近に迫り、株式市場では大きな注目を集めています。同社は2002年に実業家のイーロン・マスク氏によって設立されて以来、民間宇宙開発のトップ企業として存在感を示してきました。
同社は、宇宙への輸送コストを削減し、将来的には人類を火星へ移住させることで「複数惑星種族」となるという壮大な目標を掲げています。主力ロケット「ファルコン9」は、かつて使い捨てが常識だったブースターを垂直着陸させて再利用する革新的技術を確立し、輸送コストを劇的に引き下げました。
こうした高い技術力を背景に、同社は世界の宇宙ビジネスを実質的に支える存在へと成長しました。地球低軌道に数千基の衛星を配備して高速通信を提供する「スターリンク」の運営などを通じ、宇宙インフラ企業としての地位を不動のものとしています。
これまで非上場企業として財務実態が厚いベールに包まれてきた同社ですが、米ナスダック市場への上場に向けて提出された申請書類により、その財務状況の全貌が明らかになりました。
目標とする時価総額は最大2兆ドル、日本円で約310兆円という歴史上最大級の規模です。公開資料によると、2025年通期の売上高は前年比33%増の187億ドル(約2.9兆円)と、順調な成長を見せています。
本業のキャッシュ創出力を示す調整後EBITDAベースでは約66億ドルの黒字を確保している一方、最終的な純損益では49億ドル(約7600億円)の赤字となりました。さらに、2026年第1四半期だけで42.8億ドル(約6600億円)もの巨額赤字を計上していることが判明し、市場に大きな衝撃を与えました。
この巨額赤字の背景には、マスク氏が進めた大胆な経営統合と、最先端AI分野への積極投資があります。SpaceXの事業のうち、スターリンクを含むコネクティビティ部門は、2025年に114億ドルを売り上げ、全体の6割以上を占める主力事業へと成長しています。
しかし、2026年2月に、同じくマスク氏が率いるAI新興企業xAIをSpaceXが事実上吸収合併したことで、状況は大きく変化しました。AI事業部門は2025年に32億ドルを売り上げたものの、それを大きく上回る63.6億ドルの純損失を計上しています。マスク氏は、世界最大級のAIデータセンター建設や、大量の最先端GPU(画像処理半導体)の調達に向け、2025年だけで127億ドル(約2兆円)もの設備投資を実施しました。
一方、このAI事業は将来的な巨大収益源となる可能性も秘めています。提出書類によれば、SpaceXは著名なAIスタートアップであるAnthropic(アンソロピック)との間で、自社データセンターの計算能力を提供する大規模クラウド契約を締結しています。これにより、2029年まで毎月12.5億ドルという巨額収入を得る計画です。また、同社のバランスシート上には、約14億ドル相当(ビットコイン価格7万5000ドル換算)のビットコインも保有されています。

このような世界的企業の株式上場は、日本の投資家にとっても決して無関係ではありません。5月27日、SpaceXは日本の金融庁に対して有価証券届出書を提出しました。同書類によると、日本の投資家向けには最大20億ドル(約3178億円)という、海外企業の新規上場としては異例の大規模割当枠が用意されているようです。
国内ではみずほ証券が主幹事格を務め、SBI証券や楽天証券でも申し込み受付体制を整えています。日本の個人投資家が公開価格で直接SpaceX株を取得し、将来的な成長益を享受できる極めて魅力的な機会となりそうです。
世界的に見ても、今回の新規上場では売り出し株の約30%を個人投資家に割り当てるという異例の方針が採られています。これは、テスラ車の購入者やスターリンク契約者といった熱心なイーロン・マスク支持層を株主として取り込むことで、長期にわたり同氏のビジョンを支える強固な支持基盤を築こうとする戦略的な狙いの表れともいえます。
市場では、スターリンクの高いキャッシュ創出力を評価する楽観論と、AIへの巨額投資による資金流出を警戒する慎重論が交錯しています。宇宙とAIの融合企業ともいえる時価総額2兆ドルの巨人が市場でどのように評価されるのか――。日本の投資家も巻き込んだ歴史的なイベントが、いよいよ幕を開けようとしています。





