輸入物価上昇も何も感じない層もいる
情報番組に出演した芸人が、円安についてあまりにも的外れな発言をしたとして、SNSなどで話題になっています。
大まかなやり取りは以下のようなものでした。
円安による輸入物価の上昇について問われると、芸人は「円で買い物をするから……」と、円安の影響はそれほど受けないかのような趣旨の発言をしました。
これに対し、出演していた大学教授が「その買い物で購入している商品の多くは輸入品」と指摘したところ、芸人は「そこまで影響あるかな……」と返答しました。
もちろん、テレビ番組では編集の影響もあり、一部分だけを切り取って評価することには注意が必要です。
しかし、円安が輸入物価を押し上げるという基本的な仕組み自体は、それほど難しい話ではありません。
例えば、2025年7月にドル円が144円でした。
今年、それが162円まで円安になったことで、米国から1万ドルの商品を輸入すると、
・2025年:1万ドル × 144円 = 144万円
・2026年:1万ドル × 162円 = 162万円
となり、為替だけで18万円、率にして約12.5%も仕入れ価格が上昇します。
しかも、実際には為替だけがコスト要因ではありません。
原油価格はイラン攻撃前の水準近くまで低下したとはいえ、一時的な上昇によって輸送コストは押し上げられました。
また、米国では賃金上昇が続いているため、製造コストや物流コストも以前より高くなっています。
芸能人・政治家に物価上昇の痛みは分からない?
このやり取りを見て感じたのは、「無知だな」ということではありません。
むしろ、所得水準が高い人ほど、物価上昇を日常生活で実感しにくいのだろうということを改めて認識しました。
例えば、この芸人の年収は公表されていませんが、仮に3000万~6000万円程度あるとします。
これは日本人の平均年収のおよそ5~10倍に相当します。
そのような所得水準であれば、スーパーでの買い物やレストランでの食事代が多少値上がりしたとしても、家計全体への影響は限定的でしょう。
仮に年収5000万円の人が、円安による輸入物価の上昇などで年間の家計負担が50万円増えたとしても、所得に対する負担は約1%です。
一方、年収500万円の人にとって同じ50万円の負担増は、所得の10%に相当します。
生活に与える影響は決して小さくありません。
そのため、平均的な所得水準の家庭ほど、スーパーでの食料品価格や外食価格の値上がりを肌で感じやすく、「生活が苦しくなった」と実感しやすいのでしょう。
同じ物価上昇でも、所得水準によって体感には大きな差があります。
その違いが、「円安の影響はそれほど感じない」という発言につながった可能性はあるのではないでしょうか。
同じように、政治家も物価上昇の痛みを日常生活の中で実感する機会は限られているのかもしれません。
歳費や各種手当を受け取る国会議員は、一般的な家計と比べて所得水準が高く、スーパーや外食の値上がりが生活を直撃する度合いは小さいでしょう。
さらに、政権を支える重要な支持基盤の一つである経済界は、円安による企業収益の改善や株価上昇の恩恵を受ける企業も少なくありません。
そうした立場から見れば、円安を必ずしも否定的に捉えないのも理解できます。

一方、米国でも、株価や暗号資産価格の上昇によって、多額の資産を保有する層ほど恩恵を受けやすい構図があります。
資産価格の上昇は、一般の勤労世帯よりも資産保有者の利益を大きく押し上げる傾向があります。
(トランプ大統領は昨年暗号資産関連だけで14億ドル超の収入を申告しています)
こうした環境では、日々の食料品や生活必需品の値上がりに苦しむ一般家庭との間で、物価上昇に対する実感や危機感に大きな隔たりが生まれます。
加えて、政権が一定の支持率を維持している状況では、物価高に苦しむ国民の切実な声が政策に十分反映されていないと感じる人がいても不思議ではありません。
少なくとも、円安による生活コストの上昇を重く受け止めていないように映る場面があることは否定できないでしょう。
そして、7月10日に発表された6月の輸入物価指数は前年比で29.7%まで大幅に上昇ました。
円ベースの輸入物価指数の196.6となり、過去最高は1982年10月の198.1に迫っています。
輸入物価が上昇し、今後、円安を背景としたインフレが一段と深刻化し、それが政権支持率の急低下につながる可能性は否定できません。
そのような局面では、政府が円安是正に向けた政策対応へ本格的に動き出す可能性もあるでしょう。
一方で、高い支持率を維持している限りは、円安を容認・放置する姿勢が続くリスクも視野に入れておく必要があります。
今後の相場を見極めるうえでは、こうした政治情勢の変化も重要な判断材料となるでしょう。



