【株式の貸借倍率の見方を知ろう】

貸借倍率とは

貸借倍率とは、株式市場での信用取引の買い残を売り残で割り、買い残が売り残に対してどの程度の倍率になっているかを示したものです。


(計算式)個別株の場合

貸借倍率(倍)=信用買い残の株数÷信用売り残の株数


信用取引とは証券会社に一定の保証金(委託保証金)または証券(代用適格有価証券)を差し入れ、それを担保として購入資金や株券を借りて売買を行う投資手法です。

制度信用取引では返済期限が6カ月と決められています。信用取引による買い建玉(買い残)や売り建玉(売り残)は6カ月以内に清算(決済)する必要があります。



貸借倍率で潜在需要の傾きをみる

通常は建玉は反対売買で決済されるため、買い残は将来的な売り需要につながり、売り残は将来的な買い需要につながります。つまり、貸借倍率が高い個別株は信用残からみて潜在売り需要が強い状態といえます。逆に、貸借倍率が1倍未満の個別株は信用残からみて潜在買い需要が強い状態といえます。


特に、買い残の方が極端に多く貸借倍率が高くなっている個別株は、決済期限が近づくと、買い残の売り決済によって株価が下降する、あるいは上値が重くなる傾向があります。

一方、売り残の方が多く貸借倍率が1倍未満の状態では、決済期限が近づくと、売り残の買い決済(買い戻し)によって株価が上昇する、あるいは底堅くなる傾向もみられまます。市場では、「取組み妙味がある」という表現がよくつかわれます。


以上のことから、個別株に投資する際、貸借倍率が高いこと自体が将来の株価下落要因として警戒すべき点といえるでしょう。逆に、貸借倍率が低いこと自体が将来の株価上昇要因として好材料視することもできるということです。


一方、信用取引による買い建玉(買い残)や売り建玉(売り残)は必ずしも反対売買だけが決済の方法ではなく、以下のように現物の受渡しによる決済も可能です。



現引きと現渡し

信用取引には、買い残であれば買付代金を支払って現物の株券を受け取ることによる現引き決済、売り残であれば現物の株券を手渡すことによる現渡し決済など、反対売買によらない決済もあります。


例えば、今は十分な現金がないため、信用取引で買い建玉を持ったあと、買付代金が調達できた段階で現引き決済をするケースがあるでしょう。買い建玉(買い残)の状態が続くと金利負担がかさむため、現引き決済によってそれを回避することができます。


また、投資家が企業の決算期末において、株主優待などを取得することを目的に権利付き前に保有する現物株を売却できない場合、信用取引で売り建玉(ツナギ売り)を持って損益を確定させ、権利落ち後のどこかの段階で保有している現物株を現渡しすることによって決済する例も少なくありません。売り建玉を現渡しではなく、反対売買で決済し、現物株を保有し続けることも可能です。



貸借倍率の留意点

売り残が買い残を大きく上回る貸借倍率が低い状態にある場合、取り組み妙味があるとみえても、売り残が急減することで、貸借倍率が急上昇する場合があります。また、売り残自体の株数が普段の出来高よりも少ない場合などは、買い戻しによる株価の上昇要因にならない点を考慮する必要があるでしょう。


日本株情報部 チーフストラテジスト

東野 幸利

証券会社情報部、大手信託銀行トレーダー、大手銀行などの勤務を経て2006年に入社。 マーケット分析やデリバティブ市場のコンテンツを担当。世界主要指数や個別株を対象にテクニカル・ストラテジーの提案。 日経CNBC「夜エクスプレス」、日経チャンネル「マーケッツのツボ」、テレビ東京「モーニングサテライト」、ラジオ日経(金曜後場マーケットプレス)など 会社四季報プロ500、ダイヤモンド・ザイ、日経マネー、株主手帳など 金融機関向けコラム「相場一点喜怒哀楽」 IFTA国際検定テクニカルアナリスト(MFTA) 日本テクニカルアナリスト協会理事 CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務) DCアドバイザー(確定拠出型年金教育・普及協会)

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