楽天グループ、悲願の黒字化とモバイル事業の「転換点」

楽天グループが発表した2026年度第2四半期決算は、同社にとって象徴的な節目となりました。四半期ベースの連結決算において、税引前利益、税後利益、そして親会社所有者帰属利益のすべてで黒字化を達成したのです。税後利益272億円という数字は、モバイル事業への本格参入を開始した2020年第2四半期以来、実に6年ぶりの快挙であり、マーケットに「楽天復活」を強く印象付けました。


しかし、投資家やユーザーの視線は、この利益計上が「一過性のコストカット」によるものか、あるいは「持続可能な成長軌道」に乗った結果なのかという点に注がれています。特に楽天モバイルにおける設備投資の抑制と、それに伴う通信品質への影響は、今後の回線数維持における最大の論点です。



効率化の代償か、戦略的マネジメントか

楽天モバイルはここ数年、基地局整備のスピードを調整し、設備投資額をコントロールすることでグループ全体のキャッシュフロー改善を優先してきました。実際、2025年度の設備投資には計画からの遅延が発生しており、それが結果的に非金融事業の財務レバレッジ改善(ネット有利子負債の減少)に寄与した側面は否定できません。


三木谷浩史会長兼社長は、モバイル事業の赤字幅が前年同期比で41億円改善したことを挙げ、事業がデザイン通りに進化していると強調しています。しかし、2026年度の設備投資計画である「2000億円強」に対し、上期の実績は655億円に留まっており、投資が大幅に下期へ偏重している事実は、実行確度に対する疑念を完全には拭い去っていません。


同社は、用地交渉などの前工程を内製化し、工事業者のリソースを確保したことで、下半期には一気に基地局建設を加速させると説明しています。投資を「減らした」のではなく、「工程の改革によって効率化した」というのが同社の主張です。



KDDIローミング見直しと「圏外」のリスク

多くのユーザーが最も懸念しているのが、2026年10月に控えるKDDIとのローミング契約の見直しです。自社エリアの拡大に伴い、楽天はローミングエリアを順次縮小する方針ですが、これが「投資抑制によるエリアの穴」を露呈させ、回線減少(解約増)を招くのではないかという不安は根強くあります。


これに対し同社は、楽天がカバーに時間を要するエリアについては10月以降もローミングを継続し、カバレッジではなく「キャパシティ(通信容量)」の増強に軸足を移すと説明しています。万が一、自社エリアで通信が不安定になった場合には、MVNOのSIMを提供するなどの代替手段を講じることで、ユーザー体験の悪化を最小限に抑える構えです。



「宇宙」と「5G SA」が描く逆転シナリオ

設備投資の総額を抑制しつつ品質を維持するための切り札として、楽天が掲げるのがAST SpaceMobileによる衛星通信サービスです。2026年第4四半期からの商用サービス提供をめざすこのプロジェクトは、地上基地局ではカバーが困難な山間部や離島を「宇宙から」補完するものであり、他社が繋がらない場所で繋がるという独自のアドバンテージを生み出す可能性があります。


また、ソフトウェアのアップグレードによる「5G SA(スタンドアローン)」への移行や、マッシブMIMOの活用により、1局あたりの収容能力を大幅に引き上げる計画です。物理的な「鉄塔」を建てる投資から、ソフトウェアと衛星を駆使したバーチャルなインフラ強化へ。このパラダイムシフトが成功すれば、投資抑制と品質向上の両立という難題に解が出ることになります。



結論:モバイルが「三本の矢」を完結させる

楽天の強みは、単なる通信キャリアではなく、国内1億以上の会員基盤を持つエコシステムである点にあります。データによれば、楽天モバイルユーザーは楽天市場での購入額が50%近く増加し、楽天カードや楽天銀行の利用頻度も大幅に向上するという明確な相乗効果が出ています。


2026年10月には、楽天銀行を中心としたフィンテック事業の再編も予定されており、金融・EC・モバイルを統合した「スーパーアプリ」構想が加速します。楽天モバイルが直面しているのは、単なる通信事業の損益分岐点の問題ではなく、グループ全体の「稼ぐ力」を最大化するためのフロントエンドとしての役割です。


投資の減額が回線減少を招くのか、あるいは新技術がその懸念を払拭するのか。その答えは、今期の「2000億円の設備投資実行」と、衛星通信のサービス開始によって明らかになるでしょう。楽天グループは今、その巨大なインフラプロジェクトの真価が問われる、正念場の後半戦へと突入していると考えます。



【楽天グループの週足チャート】



日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

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