米連邦公開市場委員会(FOMC)は3月の利上げ開始を含め、これまで5回、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利誘導目標レンジを3%ポイントにわたって引き上げました。
Fedの積極的な利上げを受けドル独歩高、米金利上昇、米株安の嵐が吹き荒れる上、地政学的リスクの高まりもあって世界景気は軒並み減速中。経済協力開発機構(OECD)が9月26日に公表した経済見通し暫定版でも明らかで、2022年の経済見通しは3.0%で据え置きだったものの、2023年は前回6月の2.8%から2.2%へ下方修正されました。
米国も例外ではありません。2022年は従来の2.5%のところ1.5%へ引き下げられ、2023年も0.5%と前回の1.4%を大幅に下回りわずかな成長にとどまる見通しとなっています。ちなみに、OECDの予想はFOMC参加者が9月に公表した数字と正反対なんですよ。FOMCは2022年に0.2%へ見通しを引き下げつつ、2023年は1.2%と回復を見込みます。
世界のエコノミストは、世界景気の後退入りを懸念する状況です。世界経済フォーラム(WEF)が9月に実施したチーフエコノミスト調査では、72%が2023年に景気後退入りを予想していました。2023年の米成長率についても、エネルギー危機に直面する欧州に次いで弱気な様子が見て取れます。
米国の経済学者も、黙っていません。その一人こそ、ニューヨーク市立大学大学院センターのポール・クルーグマン教授です。2008年にノーベル経済学賞を受賞し、日本に対し「流動性の罠に落ちた」と警鐘を鳴らし、プリント・マネーの必要性を主張したことでも知られます。日銀自体、クルーグマン氏のご高察に耳を傾けていたとか。
また政治的にリベラル寄りで、最低賃金引き上げ支持派としても知られています。そういった背景もあって、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムを2000年から執筆してきましたクルーグマン氏ですが、9月29日付けのNYT紙で「Fedはブレーキを掛け過ぎているのか(Is the Fed Braking Too Hard?)」とのコラムをリリース。Fedによる過剰な金融引き締めが①インフレ急減速、②経済危機発生、③ドル独歩高による新興国を始めとする各国への悪影響――をもたらすと警鐘を鳴らしました。③については、約3週間前に別のコラムでも、リスクとして挙げていましたよね。
そのクルーグマン氏に、力強い援軍がやってきたのです。ハーバード大学で経済学の権威として長く君臨し、政府による分配に懐疑的だったグレッグ・マンキュー教授です。ブッシュ(子)政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めた、政治的に主流派寄りの保守系の人物として知られています。
そのマンキュー氏、自身のブログでクルーグマン氏によるFRBの利上げは行き過ぎとする主張につき「私の直感では、答えはイエスかもしれない。ポールはそのことをよく説明している」と明記していたのですよ。その上で「自分では予想もしなかったが、彼のコラムを一読することを推奨する」とつづり、他の学者の名前を連ね賛同者が増えていることも付け加えています。
政治的にも経済学の立場上でも正反対の2人が、FRBへの批判で共同戦線を張った格好です。
彼らに対し、FRBの引き締め政策を支持する経済学者こそハーバード大学のラリー・サマーズ教授。クリントン政権の財務長官を務めた同氏は、FRBがインフレ対策を最優先に掲げる直前の2021年11月からインフレ加速を警告していました。その彼は「積極的な利上げが必要で、一時的な景気後退は長期低迷よりまし」と断言し、引き締め政策をひた走るFRBにエールを送ります。
どちらに軍配が上がるのか、それはFRBの金融政策スタンスで明白になることでしょう。足元、ブレイナードFRB副議長は9月30日、米国を含め主要国の利上げを受け、一部のエマージング国が高金利と先進国の利上げにより資本流出と通貨安の圧力に直面するとの懸念を表明。マーケット・ニュース・インターナショナルによれば、サンフランシスコ地区連銀のデーリー総裁も10月5日、金融政策が過度に引き締め寄りにならないよう、世界経済と金融市場を注視していると発言したといいます。両氏はそろって拙速な利下げを否定しているとはいえ、世界経済への配慮し始めたことは確かなようです。