「儲かる株を教えてよ」は無用 個人投資家の意識は

資産形成に関心のある人なら、一度は聞いたことがある「投資は自己責任で」というフレーズ。「銘柄選びや売買のタイミングなどは、投資家自身が判断しましょう。その結果、もしも損失が発生して資産が減っても、金融機関や助言した人は責任を負いませんよ」という意味です。


以前は、冗談半分に「儲かる株を教えてよ」などの会話も気軽に交わされていましたが、今では投資顧問業などでなければタブーです。とはいえ、個人投資家自身が自信をもって投資判断を下すのは難しいのが投資の世界。日本証券業協会の調査で興味深い質問がありましたので、ご紹介しましょう。


「提案・助言・情報提供は不要」が4割超


日本証券業協会では、毎年、「個人投資家の証券投資に関する意識調査」を行なっています。個人投資家による証券保有の実態や証券投資への意識等を把握し、資産形成の施策などに役立てるためです。2022年7月中旬にインターネットで、日本全国の20歳以上の証券保有者5,000人に調査をしました。


その中に、「証券会社等に希望する、助言・情報提供サービスは?」という質問がありました【グラフ1】。



「儲かる株を教えてよ」的な助言は、本調査では「期待リターンの高い金融商品」や「売れ筋の金融商品」の助言や情報を希望する、という選択肢が該当します。希望する人は、複数回答でそれぞれ22.4%と20.6%。「儲かる株を教えてよ」派が約2割という現状は、まだ自立していない個人投資家が一定数いることが伺えます。


圧倒的だったのは、「提案、助言又は情報提供を受けたい内容はない」で、42.3%。年齢階層別に見ると、高年齢になるほど「受けたい内容はない」という人が多くなっています。20代~30代が36%なのに対し、最も多い65~69歳代では47.3%、次に多い70代以上は44.5%です。年齢を重ねるとともに証券投資の経験を積み、助言や情報提供を不要と感じるのかもしれません。


なお、「個人投資家の証券投資に関する意識調査」は、インターネット調査です。インターネットの利用環境があり、使用可能な人が回答者であるため、そもそも証券会社の営業員に投資相談をしていない人が多いことが想像できます。


この調査では、主な注文方法として、「証券会社のインターネット取引(パソコン・タブレット・スマートフォンの合計)」が株式では78.5%に上っています。投資信託は、 「証券会社のインターネット取引(パソコン・タブレット・スマートフォンの合計)」が66.1%、「銀行のインターネット取引(パソコン・タブレット・スマートフォンの合計)」が14.8%で、証券会社と銀行の合計で約8割の回答者がインターネットでの取引をしています。


インターネットで取引をしている人が8割に上る点は考慮しなければなりませんが、「提案、助言又は情報提供を受けたい内容はない」と答えた人が4割以上いたのは、金融業界に一石を投じる結果なのではないでしょうか。


このような結果は、金融機関や金融情報サービス業者からの「投資判断はご自身で行ってください」「本サイトは特定の有価証券等を推奨する目的ではありません」といった注意書きが浸透しているからかもしれません。


ライフプランに沿った中長期の資産形成


希望する助言・情報として最も多かったのは、「ライフプランに沿った中長期の資産形成に関する提案、助言又は情報提供」でした。ファイナンシャル・プランナーの筆者としては、うれしい限り。この選択肢は、年齢階級による特徴が顕著です。年齢階層別に示したものが【グラフ2】です。



「ライフプランに沿った中長期の資産形成」というだけあって、若い世代ほど多くの人が希望しています。さらにグラフをよく見ると、回答の傾向が2段階になっているように感じられます。


40代と50代の間、60歳代の前半と後半の間です。40代は29.3%で50歳は22.6%。生き方が多様化し、年代でライフプランをひとくくりにはできないものの、「人生100年時代」の折り返し前後で、意識が変化している様子が読み取れます。


また、60歳代前半は21.0%で60歳代後半以上の世代では16%台です。65歳は多くの人が公的年金を受け取り始める年齢。再雇用で働いていた人の多くが、そろそろリタイアする時期でもあるでしょう。ライフプランを立て、資産形成を中長期的と考えていた投資目的が、65歳あたりで変わってくるのかもしれません。


資産形成は、その名の通り資産を作り上げていくこと。資産管理は、その資産を望みどおりに、必要なことや欲しいもの、やりたいことなどに支払えるようやりくりすることです。これらをまとめてマネープランといいます。「儲かる株を教えてよ」の前に、いつまでにいくらの資産を作り上げたら良いか、俯瞰したマネープランを立てることが大切です。そのうえで、どの程度の運用利回りが適切なのか、それが実現できるのはどのような運用なのか、を考えましょう。その大きな流れの中で、「儲かる株」に出会えるタイミングがあったら、トレーディングを楽しむのも良いのではないでしょうか。


【参考】

個人投資家の証券投資に関する意識調査について」(日本証券業協会)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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