「NISA(少額投資非課税制度)」への関心が高まっています。ファイナンシャル・プランナーである筆者は、セミナーや家計相談の場で、NISAについて質問されたり話題に上ったりすることがよくあります。
金融業界でも話題沸騰中のNISAですが、実はそれでもまだ、NISA利用者は、「ほんの一部」というレベルなのです。
一般NISA、つみたてNISAは引き続き利用者増加
金融庁は、3ヵ月に1度、「NISA口座の利用状況調査」を集計、公表しています。2023年6月末に、2023年3月末時点のNISA利用状況が公表されました。
現行のNISAは、成人の場合は「一般NISA」と積立投資専用の「つみたてNISA」、未成年は「ジュニアNISA」があります。いずれも、1人1つの口座に限られています。
2023年3月末時点で、一般NISA・つみたてNISA合計の口座数は、2022年12月末に比べて4%増加し、合計1,873.5万口座に達しています。そのうち一般NISAが1.4%増、つみたてNISAは8%の増加です。一方、2023年で制度が終わるジュニアNISAの口座数は、2.3%減少しました。
全世代でつみたてNISAの口座が増えている
次は1年前の調査と比べてみましょう。成人対象の一般NISAとつみたてNISAについて、2022年3月末時点と2023年3月末時点の口座数年代別口座数を【グラフ1】にまとめました。
大雑把な傾向として、一般NISA(青系の棒グラフ)は比較的高齢の世代が多く、つみたてNISA(オレンジ色系の棒グラフ)は若い世代に利用されています。同世代の中で一般NISAとつみたてNISAの口座数を見ると、20歳代・30歳代ではつみたてNISAの方が多く、40歳代はこの1年で逆転し、50歳代以上は一般NISAが多くなっています。
次は、口座数の差に注目してください。2023年3月末時点は色が薄い棒グラフ、2023年3月末時点は濃い色のグラフです。
特に、つみたてNISAが全世代で大きく増加しています。確かに、どこに行っても聞かれるのはつみたてNISAのこと。筆者の肌感覚と、調査結果はだいたい同じです。
つみたてNISAの利用者は、30歳代を中心に、20歳代、40歳代が多くなっています。最も多い30歳代は1年間で約50万口座増え、40歳代は約47万口座増えました。検討したのは50歳代。1年間で38万2,764口座の増加で、20歳代の38万増944口座増を若干上回りました。
シニア世代もつみたてNISAに参戦
次は、つみたてNISAの口座増加率に注目してみましょう【グラフ2】。
1年間の増加率(グラフ中の緑のひし形マーク)は、母数自体が少ないこともあり、50歳代、60歳代の増加率が約40%と突出しています。これらの世代は、早い時期からNISAを利用している人は一般NISAをしており、最近始めた人はつみたてNISAを選ぶ傾向のようです。
人生100年時代。60歳からつみたてNISAを始めても、積み立てた資金を使う頃にはまだ元気でいられるかもしれません。子育てが一段落し、積立投資に資金をねん出しやすい世代なのでしょう。
しかし「みんながやっている」というほどではない
このように、NISA口座が増えている様子が伝わるにつれ、「みんながやっている」という空気が広がります。ですが、一般NISAとつみたてNISAの口座数は、合計約1,873万口座です。18歳以上の人口が約1億1千万人とすると、成人のNISAを利用している人はわずか17%です。これで「みんな」と言えるのでしょうか。
「NISAに関心を持っているが、まだ始めていない」という人から、「NISAはやったほうが良いでしょうか?」と聞かれることが増えました。筆者が「なぜやった方が良いと思うのか」と尋ねると、「みんながやっているから」と答える方が圧倒的。筆者は、「そんな理由ならやらない方が良い」と考えますが、世の中には同調圧力に弱い方も多いようです。
「みんながやっているから」ではなく、ご自身がやりたいと思うようになってから始めた方が良いのではないでしょうか。ご自身が「これからの人生を送るうえで、必要だからやってみよう」と感じていない人には向いていないと思います。
NISAは、株式や株式投資信託などのリスク性のある金融商品の口座です。預貯金では利用できません。リスクが低いと位置づけされる、債券でも利用できません。
勘違いしないで頂きたいのですが、私は資産形成やNISAを否定しているのではありません。むしろ、17%の人しか利用していない事実にがっかりしています。成人になったら誰もがNISAで資産形成をして欲しい、とさえ思っています。
「みんながやっているから」を理由にNISAを始めるのではなく、将来どれだけのお金を使うのか、ということに向き合って頂きたいのです。そのための資産作りとして、NISAは適した制度です。
「投資はイヤ、元本割れはイヤ、でもみんながやっているからNISAはやるべき?」とは、矛盾していませんか。なぜ投資を活用した資産形成が必要なのか、この点が納得できなければ、みんなのマネをしてNISAを始めてもうまくいくとは思えないのです。
【出典】「NISA・ジュニアNISA利用状況調査」(金融庁)