テレビの悲劇?ストリーミング配信の台頭で米TV視聴時間割合が半数割れ

7月のTV視聴時間、夏休みの影響でストリーミングが躍進


大ヒットソング“ラジオ・スターの悲劇”がリリースされた1979年から44年が経過し、米国のメディア界に新たな衝撃が走りました。


夏休みに入った7月、米国内のメディア視聴に大きな変化を確認したのです。米調査会社ニールセンによれば、テレビ全体の利用は6月より前月比0.2%増とわずかだったものの、18歳未満の視聴者数は4%増加し、18歳以上は0.3%減少。こうした視聴者数のダイナミズムの変化が、伝統的なメディアであるテレビ(TV)と、成長著しいストリーミングの明暗を分けました。


メディア別で視聴時間をみると、ストリーミングは38.7%と過去最高を記録。ネットフリックスがスーパーマン役で知られるヘンリー・カヴィル主演のファンタジー・ドラマ“ウィッチャー 血の起源”などを、アマゾンのプライム・ビデオが“トム・クランシー/CIA分析官ジャック・ライアン”など最新作を放映し、視聴時間の増加につながりました。また、ネットフリックスがケーブルTVの人気シリーズで、英国のサセックス公爵ヘンリー王子の妻メーガン妃が女優として出演した”SUITS/スーツ“を買収し、ラインナップに加えた結果、約180億分と買収した番組で新記録を樹立。ストリーミングでの視聴時間を延ばした格好です。


チャート:メディア別の視聴時間、TVが初の50%割れ


ストリーミング別の1位は、グーグル傘下のユーチューブで9.2%でした。ネットフリックスはというと8.5%と、2位につけています。3位はディズニー傘下のHulu(3.6%)、4位はアマゾン・プライム(3.4%)、5位はディズニー+(2.0%)と続きます。


逆に、広告収入で成り立つブロードキャストTVは20%、光ファイバーなど有線で住宅に繋ぎネットや番組を提供するケーブルTVは29.6%でした。合計で49.6%と、史上初の50%割れを迎えています。ただ、これには夏休み以外の季節的要因が挙げられます。というのも、米国で二大人気のプロ・スポーツと言えば2022年時点でアメリカン・フットボール(試合などをフォローするとの回答は74.5%)、バスケットボール(同56.6%)ですが、どちらも7月はオフシーズンですよね。しかし、アメフトのシーズンが開幕する9月になれば約3倍増になるだけに、7月にブロードキャストTVとケーブルTVが半数割れになったものの、秋にかけ挽回が予想されます。


ストリーミング配信企業、左団扇といかないそれぞれの事情


ストリーミング・サービスがこれだけ健闘しているならば、決算は好調かと思いきや、なかなかそうとも言えません。ネットフリックスの4~6月(Q2)期決算で売上高が前年同月比2.7%増の81.9億ドルと、市場予想の83億ドルを下回りました。Q3の売上高見通しも85億ドルと、市場予想の87億ドルに届かず。同社は、5月から100カ国以上で別世帯のアカウント共有を禁止し、同時視聴を制限するなか、会員数は590万人増と市場予想の190万人増を大幅に上回ったものの、市場の期待に見合った売上拡大に結び付きませんでした。ストリーミング業界の競争激化に伴い、一部の国々で値下げに踏み切ったことが痛手となったためです。決算発表後の時間外取引で、株価は9%下落しました。同社はまた、売上拡大を狙い、米英で広告なしで最も安い1カ月=9.99ドルの価格帯の廃止を決定しました。


チャート:ネットフリックスの会員数、増加トレンドを維持も伸びは鈍化し飽和状態が迫る


ストリーミング視聴時間1位で、アルファベット傘下のユーチューブの売上高はというと、前年同期比4.4%増の76.7億ドルと、4四半期ぶりに増収を迎えました。アルファベットの売上高のうち10.3%を占めていますが、これは前年同期の10.5%をわずかながら下回り、2022年通期の11.4%以下となります。新型コロナウイルスのパンデミックの恩恵を受け、広告収入を増やしてきた反動が引き続き響いた格好です。ユーチューブの売上増加の起爆剤は、アメフトのプロリーグ、NFLの“サンデーチケット”と呼ばれる居住地以外の全試合を配信する新サービスでしょう。2022年12月にNFLと7年間の独占契約を結んでおり、新規加入者と広告収入の増加を狙います。


娯楽大手ウォルト・ディズニーは8月9日、動画配信サービス“ディズニー+”の値上げを発表しました。ディズニー+の広告なしプランは13.99ドルと、従来から27%、Huluの広告なしプランは20%引き上げます。ネットフリックスに反し値上げに踏み切った理由は、ずばり業績不振。ストリーミング部門のQ3の純損益は5.1億ドルと、前年同期比でほぼ半減したとはいえ赤字が続きます。インドでクリケットのプレミア・リーグ試合の配信権を更新できなかったことが響きました。ストリーミング部門の不振を受け、アイガー最高経営責任者(CEO)は、稼ぎ頭のスポーツ専門局ESPNやTV局ABCの資産の売却を模索しているといいます。また、ネットフリックスと同様に共有アカウントの取り締まりを強化する方針です。


ストリーミング配信が着実に浸透しつつあるとはいえ、配信側の懐事情は必ずしも潤沢とは言えず。生成人工知能(AI)の脚本や俳優で人件費を削ろうとして怒りを買い、ハリウッドがストライキに突入した事情が垣間見えます。ストリーミングは、まさに広範囲で“テレビの悲劇”につながったと言えるでしょう。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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