好決算を発表したANYCOLOR 成長の要因を読み解く

Vチューバーグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR<5032.T>は9月13日、24.4期の1Q(5-7月)の決算を発表しました。同期の売上高は前年同期比50.9%増の89.5億円、営業利益は同90.5%増の40.4億円となり、好調に推移しています。これを好感するかたちで、同社株価は発表翌日の14日に大幅高。成長力の高さが株式市場で改めて評価されたと言えるでしょう。


右肩上がりで業績成長が続く同社を見て、Vチューバーは流行してるんだな、と思うところですが、実はそれだけでは同社の実態を正しく理解したことにはなりません。そこで決算説明資料などから、成長の要因を読み解いてみたいと思います。


まずは同社のここ数年間の業績を振り返って見ましょう。2020年4月期に売上高34.8億円、営業利益4400万円したが、これが21.4期には売上高76.4億円、営業利益14.5億円に、22.4期には141.6億円、41.9億円、23.4期には253.4億円、営業利益94.1億円に拡大。今24.4期の予想は売上高330億円、営業利益127.0億円を計画しています。


直近の実績である2023年4月期と、2020年4月期の数値を比較してみると、わずか3年で売上高は7.3倍、営業利益は213.9倍まで成長しています。改めてみると、ものすごい成長率ですね。


Vチューバーの用語のもとになったバーチャルYouTuberからもわかるように、VチューバーはYouTubなどの動画配信プラットフォームにおいて配信を行うことが主な活動になります。そのため、事業としての収益はスーパーチャット、いわゆるスパチャといわれる視聴者からの送金が主なものになっていると考えがちですが、実際にはスパチャによる収益というのは同社の一部でしかありません。



にじさんじ事業のセグメント別売上高推移(単位 百万円)

同社決算説明資料よりDZHFR作成


決算説明資料にある、にじさんじ(国内事業)のセグメント別売上高の推移をみると、それがよくわかります。グラフではスパチャによる収益はライブストリーミングセグメントに分類されています。2021年4月期第1四半期の同セグメントの収益は5.3億円。にじさんじ全体の11.4億円に対し、46.3%を占めています。2022年4月期の第1四半期になると、同7.0億円に拡大しますが、全体は26.7億円となり、割合は26.1%まで低下。2023年4月期第1四半期には、ライブストリーミングの割合は同21.1%に、直近の2024年4月期第1四半期では同12.4%に過ぎません。これは同社の急成長の要因がライブストリーミング以外の部分にあることを示しています。


1つはコマースセグメントです。これはグッズなどによる収益と言い換えることができます。2021年4月期から2022年4月期にかけては、特にこのコマースセグメントの拡大がにじさんじの成長をけん引しました。初期にはライブストリーミングによる収益の方が上回っていましたが、2021年4月期第2四半期には、コマースセグメントの売り上げがライブストリーミングを抜きました。その後も成長を続け、直近の2024年4月期第1四半期には48.6億円、全体に占める割合は65.2%にまで拡大しています。同社の主力事業と言って良いでしょう。


そのコマースセグメントに加え、2023年4月期から同社の成長をさらに加速させる要因になったのが、NIJISANJI EN(海外事業)です。こちらはグラフにはありませんが、2022年4月期下期から徐々に事業が拡大し、2023年4月期に急成長を遂げました。


コマース、NIJISANJI ENと新たな成長ドライバが加わることで加速度的に業績が拡大してきた同社ですが、そこにさらに新たな収益の柱が生まれつつあります。それがプロモーションセグメントです。企業からの依頼をもとに、コラボレーション企画やコマーシャルなどを行うことを指します。


Vチューバー人気の拡大と、企業認知度の向上などから、プロモーション領域が近年伸びており、2024年4月期第1四半期にはにじさんじで13.3億円、NIJISANJI ENでは1.2億円のセグメント売上高を計上しました。同社全体の売上高に占める割合は16.2%、国内のにじさんじだけでみれば同17.8%となっています。


こうしてみると、新興企業だけあって、次々と新しい事業が生まれ、そしてそれが拡大していくことで企業の成長が加速していく、という好循環が生まれているように感じます。さらなる成長に期待したいですね。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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