収益性重視に傾き始めた、家計の金融資産

家計の金融資産が変化しています。少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)への関心の高さは、みなさんもよく実感していることでしょう。


先日、日本銀行に事務局を置く金融広報中央委員会から、「家計の金融行動に関する世論調査 2023年」が公表されました。ここから家計の金融資産の変化を見て取れますので、ご紹介しましょう。


金融資産の平均額は1,307万円、中央値は330万円


「家計の金融行動に関する世論調査 2023年」〔二人以上世帯〕(インターネット調査、調査時期2023年6月23日・金~ 7月5日・水、世帯主が20歳以上80歳未満で世帯員が2名以上の5,000世帯)によると、金融資産の保有額は、金融資産を保有しない世帯を含めた平均額で1,307万円。前年の1,291万円よりわずかに増加しています。


金融資産の中央値は330万円。平均と1,000万円近く差があります。データが公表されている2004年以降で最も少ない2013年と同額です。なお、前年の中央値400万円からは17.5%減少しています。


保有額の平均値が微増で中央値が下がっているので、一部の資産家が金融資産残高を伸ばし、多い人といわゆる「人並み」の人の差が広がっているといえそうです。


なお、この調査の「金融資産」は、運用や将来の備えとして蓄えているものを指しています。定期預金・普通預金といった預金等の区分は問わず、日常的な出し入れ・引落しのための現金や預貯金などは該当しません。また、事業のために保有している金融資産や、土地・住宅・貴金属等の実物資産も除きます。


1年で金融資産は増えた? 減った?


金融資産を保有していない世帯を含む全世帯に対し、1年前に比べて金融資産の残高が増えたか減ったかを尋ねたところ、「増えた」と答えた人は27.9%、「減った」と答えた人は27.0%でした。ほぼ同じ水準ですが、コロナ禍前の2019年までは、「増えた」より「減った」の方が多い状態が続いていました【グラフ1】。



もう少しさかのぼったリーマン・ショック前後(2007年~2010年)は、「増えた」と「減った」の差が大きく、20ポイントほどの開きがあります。それだけでなく、「減った」が「変わらない」を上回っていました。


第二次安倍政権による「アベノミクス」(本調査のデータは2013年以降)の時期になると「増えた」が増加し「減った」が減少傾向になりました。2021年にはついに逆転。以降は隔年で入れ替わっています。この時期は、コロナ禍で外出を控えるなどして支出が減ったり、特別給付金を受け取っ足りしたことが反映していると思われます。


金融資産が増えた理由


では、金融資産が増えた人は、どのような理由だったのでしょうか。金融資産を保有している世帯のうち、「金融資産が増えた」と回答した人にその理由を尋ねたところ、2023年の結果には変化が感じられました。


【グラフ2】は、金融資産が増えた理由について、5年前の回答と比較したものです。



2023年の「株式、債券価格の上昇により、これらの評価額が増加したから」(37.3%)「配当や金利収入があったから」(33.5%)がひときわ目立ちます。


たった5年でこれほどまでに変わるのかと、驚かされます。2018年がたまたまなのではありません。公表されているデータで最も古い1989年は「定例的な収入が増加したから」が52.8%。この年は年末に日経平均株価が史上最高値をつけました。そのような年でも「株式、債券価格の上昇により、これらの評価額が増加したから」は9.3%でした。


なお、金融資産を保有している世帯で「金融資産が減った」と答えた人の理由は、「定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから」が最も多く45.6%、次が「耐久消費財(自動車、家具、家電等)購入費用の支出があったから」(22.1%)です。


減った理由の「旅行、レジャー費用の支出があったから」は2020年~2022年が5%前後と新型コロナウィルスの影響を受けていましたが、2023年は13.5%に上り、コロナ禍の水準に戻りました。


老後資金、つまり長期保有目的、ならば収益性重視か


最後に、金融資産の保有目的について見てみましょう。


人生の三大支出は、住宅資金、教育資金、老後資金といわれます。金融資産の保有目的として、回答の多いものを抜粋して【グラフ3】に示しました。



三大支出のうち、「老後の生活資金」だけが増加。「子どもの教育資金と結婚資金」と「住宅資金」は、バブル崩壊後に減少傾向です。少子化や低金利の影響でしょうか。「病気や災害への備え」は、近年に急低下。万が一の備えより、確実に訪れる老後の資金準備を優先しているのではないかと推測します。


一方、健闘しているのが「旅行、レジャー資金」。先述した金融資産減少の主な理由でもありました。「モノへの消費」から「コト消費」といったところでしょうか。


保有目的として圧倒的な老後の生活資金。長期間保有するので、相応のリスクを取ることができます。金融商品を選ぶにあたって「安全性」「収益性」「流動性」のうちどれを基準に考えるかという質問では、2021年から「収益性」が「安全性」を上回っています。


ずっと「投資はリスクがあるから嫌だ」という声を聞いてきた身としては、これらの変化から手ごたえを感じ、嬉しく思っています。


【出典】「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕(金融広報中央委員会)



ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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