近ごろ、中国の電池業界では「固体電池」という言葉を耳にする機会が増えてきました。従来のリチウムイオン電池に代わる存在として注目されているこの新技術が、いよいよ実用化に向けて大きく動き始めています。
固体電池の最大の特徴は、液体の電解質を使わないことです。これによって発火や爆発のリスクが大幅に下がり、外部からの衝撃や高温環境にも強くなるといいます。つまり、安全性と耐久性が大きく向上するというわけです。さらに、金属リチウムなどの高性能な材料を使うことで、体積や重さはそのままでも、より多くの電力を蓄えられるというメリットもあります。将来的には、現在の電池の2倍近いエネルギー密度が期待されており、技術革新のカギを握る存在として、産業界の関心を集めています。
「低空経済」分野で先導する市場実装
そんな固体電池が、今まさに活躍の場を広げているのが「低空経済」と呼ばれる分野です。空飛ぶクルマとして話題のeVTOLや、ドローンなどは軽くて安全、そして高出力の電源が必要不可欠です。こうしたニーズに応える形で、固体電池はすでに一部で商用利用が始まっています。調査会社の深セン市高工産研諮詢(GGII)によると、当初予想されていたEV市場での本格普及に先駆け、こうしたニッチ市場での導入は、技術の信頼性を実証し、量産コストを下げていく上でも大きな意味があるとされています。
企業の動きも活発です。たとえば上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板」上場の孚能科技(688567)は、第2世代の半固体電池を開発中で、2025年には量産を始める予定だそうです。この電池はエネルギー密度が330Wh/kgを超え、サイクル寿命も4000回以上と、かなりの性能を誇ります。まずはeVTOLやロボット分野での採用を目指しており、すでに国内の大手eVTOL企業からバッテリー供給元に選ばれているとのことです。
また、レーザー設備メーカーの海目星激光科技(688559)は、固体電池の製造企業・欣界能源と提携し、年産2GWh規模の製造設備を供給する契約を結びました。この電池には酸化物系の固体電解質と金属リチウムが使われ、エネルギー密度は450Wh/kgを超えるといいます。すでに、ドローンやeVTOLメーカーの億航智能控股が開発しているeVTOLに搭載され、航続距離の記録更新を続けているそうです。
EV向け、2027年から少規模量産か
一方で、電気自動車向けの本格的な導入にはもう少し時間がかかりそうです。大手電池メーカーのCATL(03750)は、固体電池の研究開発を継続しており、2027年に小規模な量産を開始する可能性があると発表しています。大手二次電池部材メーカー格林美(002340)も、同じく2027年をめどに試験運用を始め、2030年には本格的な量産体制を整える見通しを示しています。
また、車載電池メーカー大手、国軒高科(002074)では「金石電池」と呼ばれる全固体電池の中規模試作が進んでおり、量産ラインの設計にも着手しているとのこと。エネルギー密度300Wh/kgの「G垣」という準固体電池の開発も進み、安全試験をクリアしたうえで、年産12GWhの生産体制を計画しています。
「材料」と「コスト」がカギ
材料系企業も開発を加速しています。厦門タングステン業(600549)はコストの高い硫化リチウムの合成に新たな手法を導入し、大幅なコスト削減の可能性を示しています。
また、天斉リチウム(09696/024660)は「リチウム資源の供給者」から「材料ソリューションの提供者」へと脱皮を図っており、電解質、正極、負極といった固体電池の主要構成要素を自社で開発し、関連企業との連携も進んでいます。同社と固体電池の開発企業、北京衛藍新能源が共同出資する天斉衛藍固リチウム新材料(深セン)は、金属リチウム負極やリチウム系合金、プレリチウム化材料の研究・製造を手掛け、プレリチウム化用の実験設備が完成し、中規模生産設備の第一段階の試運転を終えました。
それでも、固体電池の普及には乗り越えるべき壁があります。最大の課題は、固体電解質などの材料をどうやって安価に大量生産するかという点です。性能とコストのバランスが取れなければ、せっかくの技術も広く使われることはありません。その意味でも、今後の材料開発や生産体制の整備が、業界全体の行方を左右することになるでしょう。