7月の雇用統計ショック
すでにFX取引をしている方にとっては既報ですが、8月1日に発表された米国の7月雇用統計はあまりにも大きな衝撃となりました。
当日は、通常の失業率や非農業部門雇用者数変化 、平均時給等が発表されただけではなく、過去2カ月分の非農業部門雇用者数変化の修正が公表されました。
その過去2カ月分の修正があまりにもショッキングな内容で、これまでの1.6万人増加が25.8万人減少と大幅に下方修正されました。
市場では6月の州政府と地方自治体の雇用が7万3000人増加とされていたことが、兼ねてから疑問視されてはいました。
しかし、これほどの修正がされるとはだれもが思っていなかったことです。
この5・6月の同指標の結果が全く違うものになったことは、過去2カ月の雇用指標の全否定と捉えることができます。
この大幅修正の要因は、前回の推定値発表以降に企業や政府機関から受け取った追加報告と季節要因の再計算によるものとされています。
局長解任でダブルショック
ただでさえ雇用統計のショックを受けた中で、トランプ米大統領がマッケンターファー労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics=BLS)長を解任をする言うダブルショック状態となりました。
トランプ大統領はマッケンターファー氏が「カマラ(ハリス氏)の勝利の可能性を高めようとし雇用統計を偽造していた」とSNSで記載しています。
雇用悪化という数字を見て、この結果が操作されたものとするのがいかにもトランプ氏です。
ただ、エコノミストの間ではこれまでも、政府による移民規制は労働力の供給を減少させ、ベビーブーマー世代の退職の加速も影響すると言われていました。
逆にこれまで、移民規制の中で雇用がここまで持ちこたえていたことがサプライズでした。
経済指標の改ざんはあるのか?日本も改ざんだらけ
そもそも、経済指標の改ざんはあるのでしょうか?
一部ではロシアや中国の経済指標は改ざんされているとの声もあります。
ただ、日本もつい最近まで改ざんがあったのは周知の事実ですので、他国のことを非難できません。
有名なのは厚労省による毎月勤労統計調査の改ざん。
これは2004年から2017年まで続き、データの一部を調査せず、雇用保険の失業給付等の支給額が不当に抑えられていました。
過少給付の総額は567億円を越え、影響は延べ1900万人に及ぶ可能性があるとも報じられています。
更に厚労省は、再び毎月勤労統計調査の2019年3月と18年度の確報値の公表を突然延期しています。
他にも、2021年12月には国土交通省も、国が特に重要だと位置づける基幹統計の一つ建設工事受注動態統計でも不正が見つかっています。
FXの中ではなじみがない統計ですが、GDPの算出に使われるほか、月例経済報告でも参考にされる統計です。
しかも、統計のミスではなく、原票を消しゴムで消し、鉛筆で修正するという、明らかな不正(改ざん)でした。
これらの改ざんは政府に都合の良い結果になるように使われていました。
米国の信頼低下
今回の米国での、労働省労働統計局長の解任ですが、バイデン前大統領が指名した局長とはいえ、改ざんしていた証拠は一切ありません。
むしろ、5-6月の非農業部門雇用者数変化はトランプ米大統領にとっては、好都合の結果が出ていたわけですので、民主党に優位にする統計と捉えるのは無理がありそうです。
それなのに、解任したことで、これからはトランプ米大統領に優位の統計結果しか出ないだろうとの声が強まっています。
雇用統計だけではなく、BLSは消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)等のインフレ指標も発表しています。
米連邦準備理事会(FRB)はインフレ指標が低下しないことで、利下げに二の足を踏んでいますが、これからはトランプ大統領に都合の良い結果(インフレ低下)が発表されるかもしれません。
BLSの指標は透明性と信頼性を失うことになりそうです。
一方で、個人消費支出(PCE)は商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis=BEA)が発表しています。
BLSの発表するCPIと、BEAが発表するPCEのインフレ市況の結果にかい離が生じることもありそうです。
ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン氏も今後は統計局の数値を信じることができなくなると批判しています。
これからは民間の指標を見ていかなくてはならないとも述べています。
これは、すなわち米国の信頼が大きく低下したとも言えます。
市場は、今後も出た数値を盲目的に反応する可能性はあります。
ただ、今後は米国の経済指標を信じてやってはいけないのかもしれません。