やってはいけないこれだけの理由

第157回「経済指標を信じてやってはいけない?」

7月の雇用統計ショック


すでにFX取引をしている方にとっては既報ですが、8月1日に発表された米国の7月雇用統計はあまりにも大きな衝撃となりました。

当日は、通常の失業率や非農業部門雇用者数変化 、平均時給等が発表されただけではなく、過去2カ月分の非農業部門雇用者数変化の修正が公表されました。


その過去2カ月分の修正があまりにもショッキングな内容で、これまでの1.6万人増加が25.8万人減少と大幅に下方修正されました。

市場では6月の州政府と地方自治体の雇用が7万3000人増加とされていたことが、兼ねてから疑問視されてはいました。

しかし、これほどの修正がされるとはだれもが思っていなかったことです。

この5・6月の同指標の結果が全く違うものになったことは、過去2カ月の雇用指標の全否定と捉えることができます。


この大幅修正の要因は、前回の推定値発表以降に企業や政府機関から受け取った追加報告と季節要因の再計算によるものとされています。


局長解任でダブルショック


ただでさえ雇用統計のショックを受けた中で、トランプ米大統領がマッケンターファー労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics=BLS)長を解任をする言うダブルショック状態となりました。

トランプ大統領はマッケンターファー氏が「カマラ(ハリス氏)の勝利の可能性を高めようとし雇用統計を偽造していた」とSNSで記載しています。


雇用悪化という数字を見て、この結果が操作されたものとするのがいかにもトランプ氏です。

ただ、エコノミストの間ではこれまでも、政府による移民規制は労働力の供給を減少させ、ベビーブーマー世代の退職の加速も影響すると言われていました。

逆にこれまで、移民規制の中で雇用がここまで持ちこたえていたことがサプライズでした。


経済指標の改ざんはあるのか?日本も改ざんだらけ


そもそも、経済指標の改ざんはあるのでしょうか?

一部ではロシアや中国の経済指標は改ざんされているとの声もあります。

ただ、日本もつい最近まで改ざんがあったのは周知の事実ですので、他国のことを非難できません。


有名なのは厚労省による毎月勤労統計調査の改ざん。

これは2004年から2017年まで続き、データの一部を調査せず、雇用保険の失業給付等の支給額が不当に抑えられていました。

過少給付の総額は567億円を越え、影響は延べ1900万人に及ぶ可能性があるとも報じられています。

更に厚労省は、再び毎月勤労統計調査の2019年3月と18年度の確報値の公表を突然延期しています。



他にも、2021年12月には国土交通省も、国が特に重要だと位置づける基幹統計の一つ建設工事受注動態統計でも不正が見つかっています。

FXの中ではなじみがない統計ですが、GDPの算出に使われるほか、月例経済報告でも参考にされる統計です。

しかも、統計のミスではなく、原票を消しゴムで消し、鉛筆で修正するという、明らかな不正(改ざん)でした。

これらの改ざんは政府に都合の良い結果になるように使われていました。


米国の信頼低下


今回の米国での、労働省労働統計局長の解任ですが、バイデン前大統領が指名した局長とはいえ、改ざんしていた証拠は一切ありません。

むしろ、5-6月の非農業部門雇用者数変化はトランプ米大統領にとっては、好都合の結果が出ていたわけですので、民主党に優位にする統計と捉えるのは無理がありそうです。


それなのに、解任したことで、これからはトランプ米大統領に優位の統計結果しか出ないだろうとの声が強まっています。

雇用統計だけではなく、BLSは消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)等のインフレ指標も発表しています。

米連邦準備理事会(FRB)はインフレ指標が低下しないことで、利下げに二の足を踏んでいますが、これからはトランプ大統領に都合の良い結果(インフレ低下)が発表されるかもしれません。

BLSの指標は透明性と信頼性を失うことになりそうです。


一方で、個人消費支出(PCE)は商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis=BEA)が発表しています。

BLSの発表するCPIと、BEAが発表するPCEのインフレ市況の結果にかい離が生じることもありそうです。


ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン氏も今後は統計局の数値を信じることができなくなると批判しています。

これからは民間の指標を見ていかなくてはならないとも述べています。

これは、すなわち米国の信頼が大きく低下したとも言えます。


市場は、今後も出た数値を盲目的に反応する可能性はあります。

ただ、今後は米国の経済指標を信じてやってはいけないのかもしれません。





この連載の一覧
第157回「経済指標を信じてやってはいけない?」
第156回「これまでの常識が通じると思ってやってはいけない」
第155回「日米合意の茶番、『これまでにない』という言葉を信じてやってはいけない」
第154回「参議院選挙後の豹変を覚悟しないでやってはいけない」
第153回「チキンで良いときがあるのを知らないでやってはいけない」
第152回「本来の意味でのIMMポジション利用法を知らないでやってはいけない」
第151回「7月上旬…大きなリスクがあるのを知らないでやってはいけない」
第150回「輸入・輸出依存度の変化・・・代替国があるか否かを知らずにやってはいけない」
第149回「なぜウクライナ和平が米中協議に影響を与えりかを知らずにやってはいけない」
第148回「この後の6月の重要スケジュールを知らずにやってはいけない」
第147回「サプライズか否かを知らずにやってはいけない」
第146回「トランプ関税、これからの物価上昇を見ないでやってはいけない」
第146回「そのポジション7月まで我慢できますか?時間軸を無視してやってはいけない」
第145回「日本の政治家の会見を期待してやってはいけない」
第144回「小さな波に乗るために大きな波を逃してやってはいけない」
第143回「ドル売りと円買いが違うことを知らないで、やってはいけない」
第142回「米国の製造業回帰はあるのかを考えないでやってはいけない」
第141回「第2次プラザ合意はあるか?・・・万が一のリスクを考慮せずにやってはいけない」
第140回「反トランプが支持率回復・・・各国の政治状況を知らずにやってはいけない」
第139回「石破降ろし・・・FXも参議院選挙を考えないでやってはいけない」
第138回「4月上旬・・・重要な日程を知らずにやってはいけない」
第137回「ドル円の押し下げ介入のリスクを考えないでやってはいけない」
第136回「歴史は繰り返す・・・過去の歴史を知らずにやってはいけない」
第135回「なぜトランプ米大統領は停戦交渉を進めるか?・・・欧州圏の動向を考えずにやってはいけない」
第134回「2025年の10大リスク・・・すでに現実化、FXの動向も予想しないでやってはいけない」
第133回「米加墨通商摩擦・・・どこの国が得するかを考えないでやってはいけない」
第132回「リスク回避の動き・・・そろそろこれまでの常識通りにやってはいけない」
第131回「トランプ政権開始で一瞬先は分からず・・・8年前に倣ってやってはいけない」
第130回「日本の経済指標・・・真剣に読み解いてやってはいけない」
第129回「第2次トランプ政権・・・米国離れを考えないでやってはいけない」
第129回「順張り・逆張り?それぞれ何をやってはいけない?」
第128回「昨年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第128回「短期・中長期のポジションについて・・・ポジションを混同してやってはいけない」
第127回「日銀総裁驚きの発言・・・総裁発言を信じてやってはいけない?」
第126回「第2次トランプ政権・・・脱米国になる可能性を無視してやってはいけない?」
第125回「何が市場を引っ張っているか分からないでやってはいけない」
第124回「12月の日銀政策決定会合・・・データを信じてやってはいけない?」
第123回「FXは専門家に任せてやってはいけない」
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
【やってはいけないこれだけの理由】第20回「ファンダメンタルズには逆らうな」
【やってはいけないこれだけの理由】第19回「日本語を信じるな…翻訳ソフトで良いので原文を読む」
【やってはいけないこれだけの理由】第18回「サプライズ介入は成功するのか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
【やってはいけないこれだけの理由】第15回「介入に備える…その4、中銀は負けが多い」
【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第9回「FXだけで食べていく計画、その1…まずは金融機関と違うことを認識」
【やってはいけないこれだけの理由】第8回「儲けるために大事なこと…臆病者が勝つ」
【やってはいけないこれだけの理由】第7回「新聞は読むな?」
【やってはいけないこれだけの理由】第6回「FX詐欺でTKOされないために」
【やってはいけないこれだけの理由】第5回「どのFX指南役が信用できるか、その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第4回「140.00円に売りなんて置いてはいけない!」
【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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