2月9日、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が保有する同社株を売却したことが市場で話題となりました。
同日、提出された大量保有報告書によると、柳井氏の保有比率は従来の19.23%から18.20%に約1%低下。親族など共同保有者と合計した保有比率は同43.30%から42.30%まで低下しました。
基本的に柳井氏含む共同保有者はファストリ株をこれまであまり売却してきませんでした。ですが、今回の売却に加え、2023年7月にも保有株を売却しています。半年あまりの短期間で2回の株式を売却というのは、ここしばらく見られなかった出来事です。
なぜ、柳井氏は続けざまに保有株を売却したのでしょうか。2024年の日経平均株価はバブル高値の更新も視野に入る高値圏まで上昇。ファストリの株価も上場来高値圏と好調です。こうした株価を高値と感じ、利益確定売りを出したのでしょうか。
ファストリ日足チャート
実はこれには日経平均株価の算出ルールに基づくテクニカルな要因が存在します。より正確には、日経平均株価を算出する日本経済新聞社が2022年10月に導入した「日経平均株価への「ウエートキャップ」導入等に関するコンサルテーションについて」が関係しています。
これは日経平均株価を構成する銘柄のうち、特定の銘柄による影響が突出して高くなることを防ぐためのものです。仮にこの指数ウエートが既定の水準を上回った場合、日経平均算出時に用いられる株価換算係数に加え、「キャップ調整比率」を考慮して算出しなおすことになります。
このキャップ調整比率が設けられた場合、ファストリの日経平均株価に対するウエートは低下。パッシブ連動資金によるリバランス売りの圧力が高まると警戒されていました。
指数ウエートは日経平均プロフィルのウエート一覧で確認することができますが、このウエートキャップが導入された2022年には同社の指数ウエートは11%を超えていました。
柳井氏が株式を売却した2023年7月、そして2024年1月はともに、このウエートキャップの判定時期にあたり、これを11%以下に抑える目的などがあったと推察されます。今回、柳井氏が保有株を売却していた期間は2024年1月15日から2月2日にかけてであり、同社株のウエートが11%に接近していたタイミングであることからも、そのことが伺えます。
柳井氏自身が売却の理由を語っているわけではありませんが、結果としてウエートキャップの判定基準となる2024年1月末時点の同社の指数ウエートは11%を下回り、キャップ調整は免れることとなりました。
仮に11%を上回り、キャップ調整比率0.9が設定されていた場合、パッシブ連動資金によるリバランスの売りは数千億円単位にのぼるとの試算もあります。これを避けられたことは、今後の日経平均株価の動向そのものにも明るい材料と言えそうです。
とはいえ、ウエートキャップの判定はこれで終わったわけではありません。むしろ、導入時の影響を抑えるためとして当初12%としていた指数ウエートの上限は段階的に11%に引き下げられ、2024年10月以降(判定時期は7月の予定)は10%まで引き下げられます。より厳しい条件で判定されることになるため、条件をクリアするのは今回よりも難しくなるかもしれません。7月の基準日が近づくにつれ、3度目となる柳井氏の売りがあるのではないか、との見方が市場で広まる可能性は否定できないでしょう。
1銘柄で日経平均を上げ下げするほど影響力の大きな銘柄であることから、今後のファストリ株の動向により注目していきたいと思います。