東京証券取引所など国内の4証券取引所は7月2日、2023年度の株式分布状況調査を発表しました。調査によると、個人の株主数(延べ人数)は1949年度の調査開始以来で最高となる7445万人(前年度比462万人増)となり、10年連続の増加となりました。
2024年に新NISAが開始されたことに伴い、投資についてメディアで取り上げられることも増えていますし、投資が盛り上がっているなという肌感覚に沿った数値ではありますが、すごい増加数ですね。
ただし、7000万人という数字だけを見るとすごく多く感じますが、実態はこれより少なくなっているものと思われます。というのも、ここでいう個人株主数とは(延べ人数)とあるように上場企業の株主数を単純に足した数となっているからです。
わかりやすく言うと、ソフトバンクグループの個人株主が仮に1万人いるとして、同じく任天堂の株主が1万人いたとします。その場合、延べ人数では2万人とカウントされますが、実際には同じ人が両方の企業の株を持っているケースもありますよね。その分、延べ人数よりも実態の数は少なくなるというわけです。
個人株主数(延べ人数)の推移
日本取引所発表資料よりDZHFR作成
とはいえ、個人株主数が増加基調にあることに変わりはありません。上のグラフをみるとわかりますが、特にこの数年は増加のスピードも加速しています。ちなみに2023年はNTTが大型の株式分割を行った結果、株主数が大幅に増加したことなどが寄与しています。
また、2018年にはソフトバンクの上場が、2015年には日本郵政グループ3社の上場が株主数の増加に影響している面もあるなど、年度によっては特殊な要因があるケースもありますが、2020年以降株主数の増加が加速している傾向にあるようです。
2024年は新NISAで株主数が増加しているようだと先ほど述べました。では2020年からの動きはどうでしょうか。一つはコロナ禍でリモートワークが増え、自宅で株式取引をする人が増えたという面があると思います。また、東証改革によりそれまで値がさ株だった任天堂やファーストリテイリングなどの企業が株式分割を実施し、最低購入金額が低くなったことも株主数増につながっていると思われます。
主要投資部門別でみた株式保有比率の推移
日本取引所発表資料よりDZHFR作成
一方で株式保有比率(上グラフを参照)を見てみると、個人投資家の持ち分はそれほど上昇していません。というよりも、200年ごろには20%前後だったのが、直近では17%前後まで減少しています。また、都地銀や生損保らなど金融機関の保有も減少傾向にあります。昨今でも持ち合い解消や政策保有株の縮減などが株式市場で話題となることはありますが、長期のトレンドにおいて減少が続いていることがわかります。
かわって保有比率が上昇しているのが外国法人です。特にアベノミクス以降から保有割合は上昇が続いており、直近では30%を超えてトップとなっています。東証の主役は外国人投資家であり、その売買動向に指数も左右されるといわれるのもわかる気がします。
その外国人が2023年度に買った株はなんでしょうか。同調査では外国法人の業種別保有比率も開示されています。2022年度から2023年度に保有比率が特に伸びていた業種上位3位までを挙げると、1位が海運業で32.0%(前年度比4.9%ポイント上昇)、2位が医薬品で44.7%(同4.3%ポイント上昇)、3位がその他製品で38.8%(同4.1%ポイント上昇)となります。その他製品は実質的には任天堂のことを指すと思っていただいて構いません。医薬品はあまり上昇したイメージはありませんが、海運も任天堂も2023年度は良く上昇しましたし、納得のランキングと言えそうです。
一方で、個人が2023年度保有割合が上昇した業種についても、上位3位まで挙げましょう。1位は金属製品で22.6%(同1.8%ポイント上昇)、2位が鉄鋼で27.0%(同1.3%ポイント上昇)、3位が食料品で21.6%(同1.2%ポイント上昇)となっています。
少し意外なラインナップと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ここには個人投資家ならではの要因があります。というのも株式分割を実施した企業が多く含まれている傾向があるのです。3位の食料品が一番わかりやすかったので、いくつか例を挙げさせていただきますと、同年度に森永製菓、森永乳業、ヤクルト本社、明治ホールディングス、寿スピリッツなど、いくつもの企業が分割をしています。
これにより、寿スピリッツでは前年度に比べておよそ6倍、ヤクルト本社も3.5倍にまで株主数が増加しています。これらは機関投資家などが多い外国法人では見られない、個人投資家ならではの投資動向と言えそうです。
7月4日には日経平均株価、そしてTOPIXがともに史上最高値を更新しました。こうした好地合いの影響もあり、2024年度も個人株主数はますますの増加が見込まれます。投資が盛り上がり、株式市場により多くの資金が流入してくれば、それは既存の投資家にとってもチャンスです。貯蓄から投資の流れが進み、個人投資家が東証の主役になる日がくるかもしれませんね。