ブラックマンデーを超える下落幅 その背景に円キャリートレード?

8月に入り、値動きの荒い相場が続いています。8月2日に下落幅でブラックマンデーに次ぐ下げになったと思いきや、週明け8月5日は4000円超の下落とブラックマンデーを超える史上最大の下げ幅を記録。その翌日6日には、一転3200円高で史上最大の上げ幅となるなど、もう目が回りそうなジェットコースター相場となっています。



日経平均株価日足チャート


相場が乱高下するなかで、その要因なのではと市場で話題になったのが「円キャリートレード」の巻き戻しです。そもそも円キャリートレードってなに?と思われる方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に説明すると海外の投資家などが円を調達し、その資金を日本株や海外の株などさまざまな資産に投資することを指します。


なぜ、わざわざ円を借りて投資するのか、というところがポイントで、これは日本の非常に低い金利を活用するところに妙味があるのです。例えば0.5%の金利で円を調達します。そしてそれを金利5%のドルに転換し投資をすると差の4.5%が利益となります。実際には投資先の資産も値動きがありますし、為替自体も変動するのでリターンはその都度変わってきますが、基本的な考えとしては上記のようになります。


これまで円キャリー取引が隆盛となった場面は複数回ありますが、足もとで起こっている円キャリー取引のきっかけとなったのがコロナ後の世界的なインフレでした。インフレを抑えるために世界各国の中央銀行が相次いで利上げを実施。米国では政策金利のレンジが5.25-5.50%にまで上昇しました。一方で、日本はその間、マイナス金利を維持しており、一切利上げを行いませんでした。


こうなると両国間の金利差が広がり、円キャリー取引の妙味が増します。加えて、為替も円安ドル高が進むことで金利差だけでなく為替差益も得ることができるため、ますます魅力が増し、円キャリー取引をする人が増えます。その流れがさらに円安の流れを加速させるという流れができあがっていきました。


少しケースは違いますが投資の神様として知られるウォーレンバフェット率いるバークシャーハサウェイが日本の商社株に投資した際にも、日本で社債を発行しその円で投資を行っていました。これもドルで借金するより円で借金したほうが金利が低いという金利差をいかした仕組みとなっています。


ここまで説明してきたように円キャリーの大前提は低い金利です。ですが、7月の日銀会合で利上げが実施されました。利上げ幅は小幅ですが、今後も利上げが続くかもしれない。そして米国ではインフレが落ち着いてきたことが様々なデータで確認され、いよいよ利下げが始まるといわれています。


金利差が縮小していくと円キャリートレードの妙味が薄れることになります。そのため、同取引を行っている人たちが一斉にそれまで投資していた資産を売却し、円を買い戻す動きをしたことで円高株安の流れが加速した、というのが前述した円キャリートレードの巻き戻しが犯人説です。


円キャリーの総量がどの程度あるかは不透明で、一説にはまだ減少前の半分くらいしか解消されていないと指摘する声もあります。シカゴ取引所に上場するIMM通貨先物の建玉情報のうち、投機筋のポジションによる円ショートはかなり減少傾向にあるとの指摘もありますし、一定程度は推測することができるとは思いますが、真相は霧の中です。


8月7日には日銀の内田副総裁から、市場が不安定なうちの追加利上げの実施を否定するような発言があり、一時株高円安に振れる場面がありましたが、しばらくは為替や中央銀行の動向に振らされる相場環境が続きそうです。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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