2025年NHK大河ドラマに見る「インフレ抑制のタイミング」と日銀の利上げ戦略

2025年1月よりNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢囃~」が放映されます。東京の吉原から時代を動かす出版プロデューサーとなった蔦屋重三郎が主人公ですが、もうひとつの時代背景は「享保の改革から田沼時代を経た寛政の改革と後日談」です。調べてみると、2025年の日本が迎えているインフレ推進策の「打ち止め」に重複する点が多いことに気がつきます。


「田沼時代」はインフレ推奨期だった

従来の日本の歴史認識では、徳川幕府8代将軍吉宗による「享保の改革」のあと、政治の実権を側用人である田沼意次が握ります。1769年に老中核となった意次は米価格以外の税収入を推し進めるべく、株仲間の推奨や銅座など専売制の実施、鉱山の開発など多様化を図ります。


まさに現在の日銀が政策金利を下げ、さまざまな新規産業を推進する時代です。近年の研究で田沼政治は倹約令によって幕府財政の安定化をはかる緊縮財政を測っていたことが研究で進められ、この経済政策が何を目指していたのかの再定義が求められています。いずれにしても田沼政治は幕府役人のなかで賄賂や縁故による人事が横行し、1786年の10代将軍家治の死去とともに没落します。


そのあとに松平定信による「寛政の改革」が実施されます。このタイミングは2024年後期の政策金利上昇に重なるのでしょうか。



これからは現在も「寛政の改革」か

そう考えれば、大河ドラマの放送される2025年は現在も財政再建期といえます。2024年12月の日銀決定会合で利上げが見送られたのは、寛政の改革を推奨に社会が耐えられるかを日銀が危惧した結果、翌年の賃金レートの最新状況で判断しようという判断をしたものです。2024年8月に発生した「令和のブラックマンデー」は、かねてからの米株高の天井感に、日銀の利上げが重なったために発生したとみられています。


なおNHK大河ドラマは、田沼時代のもう一つの表情がテーマです。マネーフローの増大による商人資本の伸長は、社会に余裕を生み出し、「文人画」や「錦絵」の誕生を促します。この産業を出版プロデューサーとして縦横無尽の大活躍をしたのが、ドラマの主人公である蔦屋重三郎です。物語の舞台である東京都の台東区から日本橋界隈は、来年大きく注目されることでしょう。


ならば重三郎は、2023年までの低金利時代において、財を成したソフトバンクやユニクロ(ファーストリテイリング)の創業者の立ち位置でしょうか。


物価の上昇と定信の失脚

重三郎は1791年以降、寛政の改革による制限を受け、活動が消極的になっていきます。そして改革を主導した松平定信も、1793年に10代家治の父である徳川治済(はるさだ)との対立によって老中を辞職し、失脚します。「白河の清きに魚も棲みかねて、もとの濁りの田沼恋しき」という風刺歌が流行りました。


なお大河ドラマの興味深いところは、定信が失脚したあとも、それまでのチャレンジから事業が軌道に乗った蔦屋は浮世絵の喜多川歌麿、美人絵の葛飾北斎の作品を出版します。同時に発売された相撲絵は無名の新人であった東洲斎写楽。ここに滝沢馬琴、十返舎一九といったルーキーたちが新たな江戸文化を切り開いていきます。無名の新人だった写楽は、重三郎本人という説もあるようです。ドラマではどのように描かれるのでしょうか。


一方で老中を辞任した松平定信は、結果的に自分が迫害した田沼文化の浮世絵や絵巻を収集し、余生を過ごしたといわれています。そして彼らの遺した文化は、町人たちによる「化成文化」へと引き継がれていくことになります。



物価上昇による「冬の時代」の先に何があるか

2010年代から推奨された新興産業、特にスタートアップは「冬の時代」を迎えていると考えられています。投資基準の厳格化などが進み、社会変革を担おうとした人材には次の芽吹きを待っている段階の人間も多いでしょう。ただ、日本人が従来苦手としていた、集団とは異なる方向に立って動いた人材の貴重性は、とても得難いものです。


化成文化では江戸期の町人文化の全盛期にあたり、国学や蘭学の大成した時期にあたります。期せずして大航海時代を迎え、オランダやイギリスからアプローチを受けるなかで、アメリカのペリー来航に繋がっていきます。


そう考えると、今日の日本人にとっての化成文化とは何でしょうか。それを考える時期に来ているのではないかと感じます。ここを主導的に考えることによって、「今日のペリー」と呼ばれるものが国内産業のなかから現れるのか、それとも何かしらの外圧になるのかが決まります。


これはスタートアップに限らず、産業勃興の視点としても、地方創生の視点としても大切なものです。もちろん、江戸時代と現在とでは、金融政策に関する複雑さは格段の違いがあります。それでも我々は約300年前に人々が向き合った文化の移行期を参考にして、次の時代を作っていくべきだと実感します。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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