筆者は、ファイナンシャル・プランナーとして20年以上、家計相談やセミナー講師を行なっています。前職は証券会社の営業職を約13年でした。35年ほどの間、個人投資家の投資や資産形成を見てきた中で、感じることがあります。
それは「個人投資家が、投資信託に対して好意的になってきているのではないか?」ということです。
投資信託の保有率が大幅増加
従来、投資信託に対する個人投資家のご意見は、大半が否定的でした。ベテラン投資家さんからは「投信は信用できない」「株式の個別銘柄のほうが分かりやすい」。投資初心者さんからは「よくわからない」と言われていました。
ところが最近では、投資信託に対する関心の高まりを感じてます。それは筆者の単なる肌感覚なのか? と思っていたところに、興味深い調査結果が出てきました。
日本証券業協会では、3年に1度、個人が保有する金融商品の実態や、金融商品や投資に対する考え方を調べています。2024年6月から7月にかけて全国の18歳以上の7,000人を対象に行なわれた2024年度の「証券投資に関する全国調査」では、投資信託を不満に思っていない人が大きく増えているのです【グラフ1】。
購入経験者とは、本調査で「投資信託を保有している」または「過去に保有していた」と回答した人です。2024年調査では全回答者7,000人のうちの1,214人。調査回ごとに購入経験者の人数が異なるため、単純に比較はできないものの、「不満に思ったことはない」と回答した人が、今回調査で1位に躍り出ました。
ここでは、2024年の結果が2012年(新たに設けられた選択肢の場合は初出の年)に比べて増加した回答を実線、減少した回答を点線で表しています。
大幅に減少している「値下がりで損をした」は、2012年以降の相場環境を鑑みると納得しますし、「期待したほどの分配金がない」も、毎月分配型投信に対するニーズが薄れている傾向からうなずけます。「手数料・信託報酬が高い」についても、コスト引下げが続いているためか減少しています。
「証券会社等からの情報提供が不十分」については、WEBサイト上で顧客向けのコンテンツや情報提供が充実している証券会社や運用会社が増えましたし、月次レポートがダウンロードできたり、相場の急変時にファンドマネージャーからのフォローアップレポートが配信されたりと、かなり解消されていると筆者は感じています。
この結果の背景には、相場環境の良さが後押ししているだけではなく、金融庁が尽力してきた投資者保護に向けた取組みがあるのではないでしょうか。投資信託が安心して利用できる金融商品に成長していると思います。
投資信託の保有目的が「短期値上がり」「分配金」から「長期投資」へ
また、投資信託の購入理由についても、大きな変化が見られます【グラフ2】。
2012年のトップ3は、「短期の値上がりを期待して」、「長期にわたっての資産運用として」、「定期的に分配金が受け取れる」でした。この3つが同じぐらいでしたが、2015年には短期の値上がり目的が急減します。この頃は毎月分配型投信ブームの真っ最中でしたので、分配金収入を目的とした長期投資の購入が多く、両者が同じように上昇しています。
2018年調査は、金融庁が毎月分配型投信にメスを入れ始めた頃です。毎月の収益分配金を支払うために元本を取り崩すような投信がみられた時期で、「タコ足配当」という言葉もよく聞かれました。以降、「定期的に分配金が受け取れる」は急激に減少します。
その一方で、2018年は「長期にわたっての資産運用として」「比較的少額でも買える/投資できる」が増加。振り返ると、それまでは富裕層がするものというイメージが強かった投資の世界に、「少額でも投資ができる」と、若い世代や一般の投資家が関心を寄せ始めた時期でした。
2021年になると、「分散投資ができる」「NISAやつみたてNISAで資産形成の開始(2024年調査では「NISAで資産形成をしようと思ったから」に変更)」が急増します。ちょうど新型コロナウィルス禍で外出制限がある中、投資に関心が向いた時期。この頃、「長期・積立・分散投資」というキャッチフレーズも広まりました。
2024年調査の上位回答結果を見ると、投資信託を使った資産形成の王道ともいえる購入理由が並んでいます。ようやく本当の投資信託の魅力が伝わり、長期の積立投資に向いている金融商品という位置づけが根づいてきたと感じています。
【出典】日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」