「生活実感のない5万円」に専門家が伝えたいこと

2025年10月27日、日経平均株価が5万円を突破しました。高市政権の発足による「責任ある積極財政」が市場に評価され、大台を突破しました。米株高も手伝い、今後もしばらく株高は続いていくのではという見立てがあります。


一方、日本国内で生活していると、社会が株高の恩恵を受けている実感は無く、「株高はどこかの国の話のような」ふわふわとした印象すら持ちます。例えるなら生活実感の無い5万円を、我々専門家はどのように解説していけばいいのでしょうか。


「過熱感」をどのように伝えるか

投資をいつか始めたいと思っている方や、新NISAに乗り遅れた方にとって5万円の号令は強い焦りを生みます。自分も投資を始めなければ。まずは周囲の人が購入している投資信託を買わなければ。証券会社にはこのような問い合わせが殺到していると聞きます。筆者も数々の仕事で投資の面談を受任していますが、いわゆるゼロから投資をはじめてみたいという声はいつになく大きいように感じます。


あらたな連立政権となった自民党と日本維新の会による政策協議や、米中対立による不安要素が残ります。代替資産と称される金やプラチナは10月最終週に入り下落傾向にあるものの、ボラティリティ(値動き)が大きくなっています。投資の経験者から見ると、早急な投資判断は火傷を導いてしまうような、判断の難しい相場です。


日本証券業協会が2024年に実施した調査によると、株式などの有価証券の保有率は24.1%にとどまります。NISA新制度が開始した後の統計ですので、家計資産のなか株式を有するのはまだ富裕層中心といえるでしょう。



ファイナンシャルプランナーはよく、「半年分の貯蓄を残して、投資の原本をすべき」と伝えます。理想としたいのは低リスクの投資信託などで6もしくは7のコア投資、残りの2もしくは3を個別株やアクティブ投信、貴金属などといったサテライト投信にする手法です。ビットコイン(暗号資産)やFXなどもサテライト投資に該当します。これは株高の状況では基本的には変わりません。想定利率はコア投資で10%から15%、サテライト投資で20%から30%というところでしょうか。投資の中級者だと、もう少しサテライト投資の割合が増加する印象があります。


ただ、「焦って追いつけと投資をはじめた方々」は、概ねサテライト投資に注力して追い付こうとします。先行している人たちが先に投資をはじめただけの、会社の同僚や友人関係など「手の届く人たち」であるためです。その顕著な例が、先頃記事として上梓した「なぜ投資デビューにFXからはじめるのか」です。個人相談をしていて「取りあえずFXをやってみて」という声の多さに驚かされました。当然、追証(おいしょう)という言葉は知りません。レバレッジさえ知らない人も、一足飛びに実践しています。


投資の勉強をしてからの実践を勧めたい

焦りのなかで手を打った投資が上手くいくことはほとんどありません。日経平均が高いから買おうではなく、少なくともファンダメンタルズやテクニカル分析をしてからサテライト部分を購入することを勧めます。Youtubeを見ると、金商法を遵守しているかも疑わしい演者が「この株が上がる!」と並んでいますが、個別株の案内をすることは相応の資格提示が必要です。


相場が「粗い」あいだは自重する勇気を

これから2025年の12月にかけては、マグニフィセント・セブンなどハイテク株の決算に税株指標は大きく影響されます。現在は沈静化している利下げ論争も、トランプ政権が吹っ掛ける形で再度ニュースを賑わせることでしょう。過熱感を否定できない相場は、大きく影響する可能性が高いです。


投資初心者の資産を預かる専門家は、時に敢えて「顧客に自重させる勇気」を伝えることも大切です。職種によって日本は金融商品の売買をしてはじめて報酬を得られる仕組みのため、なかなか顧客の売買意志に抗うことは難しいですが、長期的な信頼を得るためにプロとしての矜持を優先するようにしましょう。



専門家自身も「未開の地」に備えていきたい

基本的に金融のコーチングにおいて、専門家と顧客のあいだには情報格差があります。だからこそアドバイスに報酬が発生する理由です。ただ、これまで日経平均で5万円を経験した専門家、および5万円からの後日談を経験した専門家は、当然ながら1人もいません。


ならば専門家自身もこれまでの経験に頼ることなく、あらためてテクニカル分析などを勉強し、コーチング知識をアップデートすることが大切です。日本では未開の地でも、海外指標で同様の動きをした事例などは参考になるでしょう。とかくこういうときにこそ、専門家は「経験談」で進みたくなるもの。「生活実感の無い5万円」は投資初心者だけではなく、実は我々のような専門家こそ試される事象なのかもしれません。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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