「このまま少子高齢化が進んだら、老後に年金なんてもらえないんじゃないか?」
「払った分だけ損するじゃないの?」
ニュースなどで少子化や高齢化の問題が取り上げられるたび、将来の年金に対する漠然とした不安を感じている方が多いのではないのでしょうか。とくに20~30代にとっては遠い未来の話であり、なかなか実感が湧きにくいかもしれません。
「どうせもらえない」と諦めてしまう前に、今の年金制度がどうなっていて、将来どうなる見通しなのか、一度立ち止まって考えてみませんか?
しかし、年金制度の実態は、皆さんが思っているイメージとは少し違う側面もあるかもしれません。
この記事では年金に対する不安や疑問に対して「令和6(2024)年財政検証結果の概要」を参考にしながら、分かりやすくお答えしていきます。
「年金もらえない」と思ってしまう背景
なぜ多くの人が「年金はもらえない」「信用できない」と感じてしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの歴史的な経緯や社会的な要因があります。
バブル経済が崩壊した1990年代以降、日本経済は長い低迷期に入りました。企業の倒産やリストラ、就職氷河期などを経験して社会全体に将来への不安感が広がっています。
2000年代に政治家の年金保険料未納問題が報道され、公的制度への不信感が一気に高まりました。年金記録が誰のものか分からなくなってしまう「年金記録問題」なども追い打ちをかけています。
一方で、年金制度は仕組みが複雑で分かりにくい面もあります。「少子高齢化で支え手が減るのに、今の制度で大丈夫なのか?」という議論もありました。
しかし、制度のメリット・デメリットが正確に伝わらないまま「年金はもらえなくなる」というイメージだけが先行してしまったと感じる一面もあります。
こうした経験や情報が積み重なり、若い世代にも引き継がれているのかもしれません。
少子高齢化の影響はあるが…年金は破綻しない?
実際に少子高齢化は年金制度にどのような影響を与えるのでしょうか?
たしかに年金を受け取る高齢者が増えていき、保険料を納める現役世代が減るという構造は、年金財政にとって厳しい要因です。
2024年財政検証でも、今後の経済成長率が過去30年程度にとどまった場合、年金の給付額の伸びを抑える調整(マクロ経済スライド)が2050年代後半まで続く可能性が示されています。
その場合、現役世代の手取り収入に対する年金額の割合は、国が目標とする「50%」をギリギリ維持する水準になると予測されています。
出生率が国の想定よりさらに下振れると、状況はより厳しくなるかもしれません。しかし、重要なのは少子高齢化が進んだとしても、それだけで年金制度が破綻するわけではないということです。
現在の公的年金制度は2004年の制度改正によって、将来にわたって持続可能な仕組みとなるように設計されています。
・保険料の上限は固定:国民年金・厚生年金ともに保険料の上限は固定される
・給付水準を自動調整(マクロ経済スライド):少子高齢化や平均寿命の伸びに合わせて、年金の給付水準の伸びを自動的に調整する仕組みがあり、保険料収入の範囲内で給付を行えるようにバランスを取っている
・積立金の活用:積み立ててきた年金積立金を将来の給付のために計画的に活用する
・国庫負担:基礎年金の給付費の半分は保険料だけでなく税金で賄われている
上記の仕組みによって「保険料収入+積立金+国庫負担」の範囲内で給付を行うように調整されるため、年金制度が破綻することは想定されていません。
平均年金額の将来見通し
実はあまり知られていませんが、将来世代ほど平均年金額は増える見通しです。その背景には、女性や高齢者の働く人が増えていることが挙げられます。
かつて「夫が働き、妻は専業主婦」というモデルは少数派になり、共働き世帯が大幅に増えました。定年退職後の65歳以上の方でも、体が健康なうちは働き続けるケースも増えています。
働き続ける期間が長くなると厚生年金に加入して保険料を納める人が増え、年金の「支え手」が増えます。
2024年の財政検証における「平均年金額」で見ると、将来世代ほどもらえる年金額は増える見通しでした。
例えば、経済成長が低い「過去30年投影ケース」において男女合計の平均年金額は、2024年度の月約24.2万円から2059年度には約25.4万円へと、物価変動の影響を除いた実質額で増える見込みです。
もちろん、これは平均値であり、個々人の状況は異なります。また、年金額が増えたとしても、老後の生活費を十分に賄えるかどうかは個人のライフプランや将来の物価水準によって変わってきます。
将来の年金「もらえない」と諦める前に知っておきたいこと
「少子高齢化だから年金はもらえない」という不安は根強くありますが、年金制度は破綻しないように設計されており、将来の給付がゼロになるわけではありません。
女性や高齢者の就労が進んだことで「平均年金額」で見れば、将来世代の方が多くもらえる見通しです。
しかしながら、将来が100%安泰というわけではありません。経済状況や社会の変化によって見通しが変わる可能性もありますし、公的年金だけで老後の生活費すべてを賄えるとは限りません。
大切なのは「どうせもらえない」と短絡的に考えるのではなく、公的年金の仕組みや現状を正しく理解することです。
公的年金は老後生活の土台ですが、それだけで全ての生活費を賄えるとは限りません。将来の年金見込み額などを参考に、iDeCoやNISAといった私的年金・資産形成制度の活用も視野に入れ、自身の老後資金計画を立てていくことが重要になります。
過度な悲観や不信感にとらわれず、冷静に情報を見極めて将来設計に役立てていきましょう。