【日本株ピックアップ】三菱重工業:造船が源流の三大重工

昨今では人工知能(AI)の進歩が目覚ましい一方、世界的な情勢不安、インフレなど不安なことも溢れています。株式市場においても時代に合わせて注目される銘柄は移り変わっていきますが、ここ数年で特に注目されたテーマには「防衛」「生成AI」「データセンター」などがありますよね。


これらのテーマで大きく盛り上がった銘柄の中で、多くの投資家に注目されたうちの一つが重工株ではないでしょうか。今回は、その中でもとりわけ人気だった三大重工の一角「三菱重工業」について取り上げていきます。


造船から重工業の中核企業へ

三菱重工業の源流は、1884年(明治17年)に創業者の岩崎弥太郎が工部省から長崎造船局を借り受け、「長崎造船所」としたことにさかのぼります。岩崎弥太郎と言えば、三菱財閥の創始者として有名ですよね。


以降は三菱合資会社を経て1917年に三菱造船が設立され、1934年には船舶のほかに重機、航空機、鉄道車両を加え、現在の三菱重工業に商号変更されました。ちなみに祖業の造船は、現在も三菱造船株式会社が事業を行っています。


戦後は過度経済力集中排除法に基づき三社に分割されたものの、1964年に再統合され現在の形となります。戦後復興期には造船、鉄鋼、エネルギー、防衛、航空機など重厚長大産業の中核企業として発展。1970年には自動車部門を分離し三菱自動車工業を発足させ、以後は原子力や火力発電、防衛装備、航空宇宙、環境分野などへ事業領域を拡大しました。


2000年代にはグローバルな買収や子会社再編を通じて複合産業体制を強化し、近年は「MISSION NET ZERO」を掲げて脱炭素社会への貢献を加速しています。2024年度末の時点で、三菱重工業単体の従業員数はおおよそ2万2000人。連結従業員数は7万8000人、グループ会社数259社(24年9月30日時点)と、まごうことなき大企業ですね。


多角化と分野特化のハイブリッド


三菱重工業は、技術の多様性を生かし以下の4つの主要セグメントで事業を展開しています。


エナジー:火力(GTCC、スチームパワー)、原子力(軽水炉・燃料サイクル)、風力発電、航空機用エンジン、舶用機械などを手がけ、エネルギー転換・分散電源・水素燃焼技術など脱炭素ニーズに対応します。AI普及により消費電力が増加すると見込まれ、そのための電力設備に必要な発電システムが注目されているセグメントです。


プラント・インフラ:製鉄機械、船舶、エンジニアリング、環境装置を含む社会インフラ分野で、特にPrimetals Technologiesなどを軸に製鉄プラント分野に強みを持つ。


物流・冷熱・ドライブシステム:フォークリフト、冷凍空調設備、カーエアコン、ターボチャージャなどを展開し、三菱ロジスネクストや三菱サーマルシステムズが中核を成す。


航空・防衛・宇宙:防衛航空機、飛しょう体、艦艇、魚雷、人工衛星などを手がけ、日本の防衛産業・宇宙開発を支える重要セクター。


2025年3月期 決算説明資料を基に弊社作成


国策・戦略産業の中核

三菱重工業は、国内重工業セクターで最大級のプレゼンスを誇る企業であり、IHI、川崎重工業とともに「三大重工」の一角を占めます。特に、防衛装備、原子力、宇宙といった国家戦略に関わる分野では技術的優位性を持ちます。ちなみに、24年3月期の防衛省向け金額は4897億円(2023年度有価証券報告書)とかなり多いですね。


海外では米国・欧州・アジア各地に拠点を持ち、Mitsubishi Power Americas、MHI RJ Aviation、Primetals Technologiesなどを通じた地域対応力も高いことが特徴。国内の産業インフラのみならず、カーボンニュートラル、AI・自動化、省人化といった未来技術にも積極投資を行い、産業界全体のトランスフォーメーションをリードしている企業です。


成長と期待を映す動き

三菱重工の株価は、2019年度以降の業績回復と成長戦略の進展を背景に堅調に推移してきました。コロナ禍で一時業績が落ち込み、株価も低迷した時期がありました。その後は脱炭素関連需要や防衛予算増加、電力需要により業績が急回復。24年3月期、25年3月期ともに過去最高益を更新しています。



24年4月には1株を10株に分割しました。分割直前の株価は13465円。これが1365円になったということで、必要資金は十数万円です。購入単価が引き下がり、個人投資家も買いやすくなったことも人気に拍車をかけた要因と言えます。


大規模な株式分割を行うと、出来高が増えるだけでなく短期資金も入りやすくなり、上値が重くなることもあります。とは言いつつも本校執筆時点の最高値は25年6月6日の3484円と、株式分割直後に比べて約2.5倍になりました。それだけ多くの投資家から長期的な期待が持たれているということですね。


出所:トレーダーズウェブ 週足チャート


コロナショック直前から現在まで株価チャートはこのようになっています。これまで重工株はオールドエコノミーの代表格という認識でしたが、今では複数テーマに当てはまる成長株に大転換しました。投資家の高い期待を背負って今後も躍進するのか、要注目です。



日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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