ファイナンシャルプランナー(FP)として10年近く仕事をしていて、今年は最も「このまま続けていけるのか」という危機感を覚えた1年でした。
それは他ならぬAIの社会インフラとしての定着です。我々が時間をかけて答えるアドバイスを、AIの諸サービスはものの数秒で、十分な量の回答を準備します。なかには100%正しい情報ではない場合もありますが、次の機会にはそれを「学習して修正する」ため、我々が対抗する余地はほとんど有りません。
実際に2025年5月はいくつかの仕事が「AIで代替できる」となりましたが、年後半に入り、少し雰囲気が変わってきたところがあります。
専門家がAIを使って補完するという流れ
当社ではFPの印象が強い個人相談にはあまり力点を置かず、執筆やマネーコンテンツなどの法人向けの商品に力を入れています。2025年前半はOpenAI社が提供するChatGPTが大きくアップデートされたことにより、くだけた言い方をすれば「もう何でもAIで出来るのでは!」という空気が覆いました。当然ながら当社への案件依頼も大きく減少しました。
夏から秋にかけ、雰囲気は変わっていきます。AIの普及を前提として、専門知識を駆使して欲しいという相談が増えました。たとえば先般頂いた案件は、補助金の申請書類をAIで作成するというものです。数ある補助金のなかには形式が似ているものも多く、AIで下地を作ることによって作業期間を効率化することができます。
またA社で採択された事例は、そのままB社に転用できるところも多いです。前提は「補助金(助成金)を採択に導くことができる専門家が土台となる文章(プロトコル)を書けること。AI登場前までの実績を持つ専門家が「AIのデザインをする」ことによって、差別化を実現することができます。
その発展形が、今年の夏に受注した「AIでFPをつくる」という取り組みです。教育・生命保険・資産運用・相続など複数のセグメントに対して、基本的なQ&Aを作成します。それを非公開のAIに埋め込み、稼働させます。イメージとしては、ソフトバンクから提供されていた対話ロボットの「Pepper」が近いでしょうか。
ただ会話の正確性を担保するうえで、人力でプロトコルを入れていくのは膨大な作業です。筆者が依頼を受けたのは合計で10万字のボリュームでしたが、この文字数ではAIが間違いをしないことを担保する「ハルシネーション・リスク」を排除できないのも現実です。このあたりをどう解決するかが、周辺のサービスには求められます。
職業訓練校でのAI講師
ここから急にアナログ感が大きくなります。AIは既に社会インフラとなっているため、「少数の人間が開発して社会に放たれるサービス」では困ります。なので、「普通の人」にもAIを使えるスキルが求められます。専門家として、この視座を上げる仕事です。
筆者が現在稼働を控えているのは、「職業訓練校での講師業務」です。職業訓練校とは何でしょうか。せっかくなので、AI(ChatGPT)に聞いてみましょう。
ChatGPTの回答
「職業訓練校(しょくぎょうくんれんこう)」とは、働くために必要な知識や技能を習得することを目的とした教育・訓練機関です。主に厚生労働省や地方自治体が関与しており、就職支援やスキルアップのために設けられています。
________________________________________
主な特徴
項目 内容
対象者 失業者、転職希望者、高卒者、子育て後の再就職希望者、障がい者 など
費用 多くのコースは無料または安価(※教材費などは自己負担の場合あり)
種類 公共職業訓練、求職者支援訓練、企業内訓練など
期間 数週間~2年程度(コースによって異なる)
修了後 就職支援、資格取得支援、企業とのマッチング など
________________________________________
教育内容(例)
・ITスキル(プログラミング、Webデザイン、ネットワークなど)
・介護・福祉
・機械加工、溶接、建設関連
・事務(簿記、PC操作、経理など) 以下略
本案件では私が実際に校舎に赴き、対面で講義を行います。AIの紹介から実際に稼働事例など、アカデミックな部分も残しながら実例的な学習機会にする予定です。このような話は職業訓練校のみならず、高校や大学、職場研修といった機会にも発展していくことでしょう。そもそもAIの講義を人間が担う理由は無いとは思いますが、まだ過渡期であるといえます。
これからの見通し
筆者の体感ですが、AIが社会インフラになったからと言って即座に専門家の仕事が無くなることはないでしょう。今後は、「AIとの距離」を詰められている専門家にチャレンジングな仕事が続く一方、その動きにより従来の専門家が担っていた仕事が不要となり、結果的に専門家全体のパイが小さくなる現象が続きそうです。
考えてみればインターネットの登場時も、大昔には産業革命も、そうやって時代は変革され、定着していきました。AIの登場は将来、間違いなく教科書に載る出来事です。私たち専門家は自分たちが長じているノウハウを提供し、報酬を得ています。AIが自分の仕事を代替するリスクと考えるか、それとも乗り回す波と考えるかによって、AIに向ける感情も変わってくるでしょう。