中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回はBYD(比亜迪:01211/002594)の続きです。
▼参考
中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
「ニカド電池が足りなくなる」電池での創業を決意
1993年、王氏が所属していた北京有色金属研究総院と包頭鋼鉄集団が合弁で新会社を設立することが決まります。ニッケル水素電池を手掛ける比格電池有限公司という会社です。王氏はこの新会社の総経理を任されます。
中国では当時「大哥大」と呼ばれる大きなタイプの携帯電話が富裕層の間で流行していました。この「大哥大」のバッテリーにはニッケル・カドミウム電池が使われていました。いわゆる「ニカド電池」です。ニカド電池は日本企業が市場を席巻していました。
そんな中、新聞を読んでいた王氏は、日本でニカド電池が環境や人体への影響を考慮して使われなくなってきていることを知ります。「中国でニカド電池が足りなくなる」と直感した王氏は、上層部にニカド電池の研究・生産をすぐに始めるよう提案します。しかし、上層部の回答は「ノー」。首を縦に振りません。目の前に大きなビジネスチャンスがあるのに放っておくことができない王氏は、自身で創業することを決意します。1994年のことです。

王氏がかつて所属した有色金属研究総院 出所:北京中教双元科技集団有限公司
創業を後押しした「南巡講話」と従兄の支援
この当時、中国では一大起業ブームが起きていました。きっかけとなったのは、1992年に改革開放を呼びかけた鄧小平氏の「南巡講話」です。多くの若者が起業のため改革開放の象徴である深センを目指します。通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)の任正非氏、民営複合起業大手である復星国際(00656)の郭広昌氏ら、中国を代表する経営者が改革開放の大号令の下、この時期に起業しています。王氏もこの流れに乗ろうと考えたのです。

深センを視察する鄧小平氏 出所:昔日東方
王氏が創業資金を集めるため頼ったのは、いとこの呂向陽氏でした。王氏より4歳年上の呂氏は、中国人民銀行(中央銀行)の地方支店幹部まで昇進した後にあっさりと退職。広東省で投資事業を手掛けていました。
王氏は呂氏に出資を依頼しましたが、呂氏は王氏が純粋な研究者タイプで経営者には向いていないと見抜いていました。そのため、この事業は必ず失敗すると確信し、王氏に対して退職して起業すること自体を思いとどまるよう説得を始めたのです。
確かに今の仕事を続けていれば、国有のため食いはぐれる心配はありません。しかし、実はこのとき王氏はすでに会社を辞めてしまっていました。創業の決意は固く、すでに退路を絶っていたのです。呂氏は王氏を信頼して250万元の資金提供を約束します。
自動+手動で低コストを実現、高コスパ電池で市場を開拓
250万元を元手とし、十数人の仲間とともに深センで事業をスタートします。しかし、海外から最新の生産ラインを購入するには250万元だけでは全然足りません。王氏は貴重な資金を節約するため、購入した古い生産ラインをいくつかのパーツに分解し、安価な労働力である「農民工(出稼ぎ労働者)」を使って自動と手動を組み合わせた独自の生産ラインを作り上げます。
これにより、1日に4000個の電池生産を実現します。王氏は電池の専門家であり、品質にはこだわりました。しかもコストは日本の同業に比べ4割安い水準です。高いコストパフォーマンスで、日本製が席巻していたニカド電池市場を切り崩していきます。こうしてBYDは電池メーカーとして知名度を高めていったのです。
なお、王氏に出資してくれた、いとこの呂氏は、現在も自身の投資会社を運営しながら、共同創業者としてBYDで副会長を務めています。株主としては、2025年6月末時点で王伝福会長に次ぐ2位株主(出資比率12.8%)となっています。最初にBYDに出資した額は250万元(約5400万円)でしたが、現在、保有するBYD株の時価総額は2兆6900億円へと膨らんでいます(2025年9月時点)。
そのまま出資を断っていたら、この資産を築くことは難しかったでしょうし、BYDという会社も誕生しなかったかもしれません。ホルダーの方は呂氏の当時の決断に感謝ですね。

若き日の王伝福会長(写真左)と呂向陽氏(写真中央) 出所:36Kr
次回もBYDの続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)で、香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場しています。
【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。




