2022年に入り、株式市場は展開が変わりました。モヤモヤしている人も多いでしょう。このような、ちょっとじれったい値動きの最中には、冷静に判断できないことも。今回は、行動経済学の観点から、判断を邪魔する投資家心理をご紹介し、心をコントロールする方法を考えてみましょう。
<目次>
1.客観的な数値でも、感情によって大きくも小さくもなる
2.みんなが同じところに碇を下ろすと
3.自分の買い値にアンカーを下ろしてしまう
4.株価の妥当性に目を向ける
5.根拠のない判断をしない
1.客観的な数値でも、感情によって大きくも小さくもなる
行動経済学とは、人間の心理から個人の経済行動や社会現象を観察・分析し、意思決定や市場価格への影響を研究する、経済の一分野です。
行動経済学では、人間は恐怖感をとりわけ大きく感じる生き物だそうです。
同じ金額でも、人は損失の悲しみを利益の嬉しさよりも重く感じる傾向とのこと。1,000円が1,200円になった嬉しさより、800円になったショックの方が大きく感じるのです。
私たちの多くは、「不快感を受け入れたくない」「快感を得たい」と思い、確実な結果を好むようです。利益は確実に得られる方法を選択し、損失は避ける傾向が強いのです。その結果、チャンスを逃すことも。損失を避けるあまり、一か八かの賭けのようなリスクの高い行動をするのも良くある話です。
2.みんなが同じところに碇を下ろすと
「この株は、いつも○○円で下がる。次に○○円になったら売ろう」と決めて売却した後、株価が上がってしまった経験はありませんか? これは○○円という数値に船の碇(アンカー)が下ろされたようになるので「アンカリング」と呼ばれます。
例えば、株価のピーク500円に達して下落が繰り返されると、投資家は500円を意識します。それが多くの投資家の売り目標となり、500円に近づいては頭打ちという動きが続きます。その後、500円で売りたい投資家の多くがその株を手放してしまうと、500円付近の売り圧力は小さくなり、あく抜けして上昇に弾みがつくのです (図1)。
この場合、500円が売り目標となりやすいのは、不快感を受け入れたくない気持ちのせい。投資家は「今度こそ下がる前に売りたい」と思います。しかし、そう思われるほど、売れた後に値上がりしやすいのです。
3.自分の買い値にアンカーを下ろしてしまう
買い値への意識も同様です。例えば、800円で買った株が直後から値下がりし、なかなか戻らなかったとします。じれったくて「800円に戻ったら売る」と、買い値にアンカーを下ろすパターン。
株価は、買い手と売り手の総意です。株価が800円に届かないのは、市場参加者が800円の価値を認めないからです。
なのにあなたは、「800円になったら売る」と頑張っています。800円に戻るには、その銘柄が800円の価値がつく環境が必要。株価が800円に戻る時は、市場がその銘柄の価値を800円と認める時。
800円の価値を認める人が出てきたのに、あなたは800円で手放しました。他の投資家も800円の価値を認め出し、その後株価は上昇しましたとさ(図2)。
4.株価の妥当性に目を向ける
では、惑わされないために、どうしたら良いでしょうか。
500円や800円という株価にこだわるより、相場や銘柄の状況に目を向けてみましょう。その銘柄の500円や800円は妥当か、背伸びをして届く水準なのか、さらに上値を狙えそうか。このような状況判断が重要です。
「売り時」とは、500や800という数字から導かれるものではありません。その都度、現状の価値として、「500円は妥当?」「800円の価値はある?」と考えてみましょう。割高と思えば売り時です。
なお、その銘柄から買った時の理由が失われた場合も、売り時です。保有する理由が感じられないなら、その資金を別の有効な投資に回した方が良いでしょう。
5.根拠のない判断をしない
しかし、その合理的判断が完璧にできる人はいないでしょう。いたらお目にかかりたいものです。
そこで凡人としては、自分の思考や判断の癖を認め、根拠のない判断をしないよう心がけるしか方法はありません。人間は、同じ数字でも違って感じる場合があると肝に銘じましょう。
人間ですから、心の変化で投資判断が揺らぐこともあります。これを1つのリスクとして認めましょう。このリスクを小さくするよう、努力や工夫をするのです。
みなさんの中にも、独自の投資ルールを設けている人は多いと思います。しかし恐怖感を避けたいあまり、一度決めたはずのルールを自分の都合の良いように、撤回、変更してしまう人も少なくありません。
これは冷静な判断を欠いている証拠。自分の信念や投資判断に矛盾するので、後味の悪い思いをします。投資は心との戦いですね。