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デジタル遺言はビジネスになるか

認知症や知的障害などで判断能力が十分ではない人たちを支援する制度が成年後見です。


6月17日、これまでの成年後見を見直す改正民法が参議院で可決、成立しました。成年後見を1度利用すると症状が改善しない限りやめられない「終身制」が廃止され、ニーズに応じて支援の内容や期間を決める「オーダーメイド制」に変わります。


この改正法には、これまで手書きが原則だった公的遺言を、パソコンやスマートフォンで作成できるようにする「デジタル遺言」の開始も定められました。長年テクノロジーの波に乗ってこなかった相続分野が、ついに重い腰を上げはじめた印象です。では、デジタル遺言は今後ビジネスになり、広がっていくのでしょうか。


保管証書遺言とは?

 今回新設される保管証書遺言とは、パソコンなどで作成する公的遺言です。「書面・電磁的記録」での作成と定められているため、スマートフォンでの作成も可能です。作成した遺言は法務局に提出しますが、そのときに身分証明を提出し、全文を口述読み上げすることによって偽造リスクを防止します。これまでの遺言制度にあった検認も不要となります。

 

また遺言者の死亡後、あらかじめ指定した人に対して、法務局から遺言書保管の旨が通知されます。

 

「相続×テック」はついに動くか

 2015年あたりから、日本ではFintech(フィンテック)という言葉が流行しました。FintechとはFinance×Technologyの略で、「金融のアップデート」を意味します。金融というのも範囲の広い言葉で、生命保険から資産運用、税金まで幅広く含まれる単語です。

 

生命保険も資産運用も上場企業が生まれ、順調に成長しているなかで、相続だけは目立った関連企業が登場せず、「一昔前の状態」が続いていました。筆者自身も相続×テックの企業を展開していたのですが、思うように市場が構築されることはなく、今に至ります。では、なぜ相続×テックは成立しなかったのでしょうか。

 

閉鎖的な業界とマネタイズの遠さ

 第一に、テクノロジーのような革新的な動きに対し、閉鎖的な業界であることがいえます。今回のデジタル遺言の話も、民間のサービスで作成したものをAPIでつなげる方法や、デジタル認証を使って本人確認をする方法など、いくらでも考えられたはずです。ところが採用されたのは、「全文を口述読み上げする」という古典的な方法でした。相続×テクノロジーに接した人間は総じて、「口頭で読み上げる?」と驚いた人も多いことでしょう。

 

この背景には、相続や遺言を取り扱うのが金融機関や士業といった旧来の方法を好む人たちという側面があります。テクノロジーを前面に出したサービスを提供しようとしても、ITリテラシーが邪魔をして導入が広がらず、あまり意味を成さないという状況が続いてきました。士業の代表格である税理士の平均年齢は60代といわれます。年齢=ITリテラシーではありませんが、無関係ではないでしょう。

 

そのような状況が続き、Fintechの波のなかでも今回のような時代に取り残された印象となってしまったのでしょうか。さらに、上記の改正法も3年ほどの時間を要して具体的に構築するなど、「詳しいことはすべてこれから」という状況です。今回の法改正に相続に近い企業などは一時色めき立ちましたが、詳細を読むにつれて「あ、詳しいことはこれからですね」と落ち着きを取り戻しました。

 


評論家では社会は変わらない

 一方で、早く相続のことを話し合わなかったばかりに家族間で争いが起き、争続(あらそうぞく)となるのも現実です。特に相続資産が不動産や証券といった現預金以外の資産になる場合は、資産の受け取り人も踏まえて「誰が、いくら受け取るのか」といった早めの対策が鍵になります。あらたな資産に加わる暗号資産(旧仮想通貨)や、キャッシュレスの資産を相続時にどのように扱うかという課題は山積しています。「テクノロジーが遅くても、どうにかなる」という世界ではありません。

 

相続トラブルは各個人・家庭にもとづくため、資産運用における「日本のタンス預金は〇〇億円」や生命保険の「無駄な保険料を削減する」といった全体課題にならないのも、取り組みが進まない背景のひとつといえるでしょう。「相続×テックはダメなんだよね」という評論家ベースの姿勢はとても楽ですが、それでは社会は変わりません。3年後の実務面の実装に向けて、「デジタル遺言の取組みが相続×テックをついに動かした」という流れになることを強く望みます。

 

相続はパーソナルファイナンスの「終着点」であり、資産運用や保険、ライフプランとも深く関わる領域です。さまざまな企業のホームページなどを見ると「ゆりかごから墓場まで」と人間の一生涯を対象としている文言も目立ちます。今回のデジタル遺言制度の創立を期に、「ゆりかご」の部分が大きく動きはじめることを願っています。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

FP事務所MYS代表。ファイナンシャルプランナー(FP)。日本最大級のマネースクール事業に参画。上場株、貴金属、為替のほか、これまで約700本の執筆記事を手掛ける。1982年北海道生まれ。

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