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第206回 「アジア通貨危機」から学ぶ通貨の信用

FXでは、「通貨はその国の経済力や信用を映す鏡」といわれます。普段は大きく変動しない通貨でも、市場がその国の経済や政策に不安を抱けば、一気に売られることがあります。

 

その代表的な出来事が、1997年に発生した「アジア通貨危機」です。この危機はタイから始まり、インドネシア、韓国、マレーシアなどアジア各国へと急速に広がりました。世界経済にも大きな影響を及ぼし、「通貨への信認」がいかに重要であるかを市場参加者へ改めて認識させる出来事となりました。

 

今回は、アジア通貨危機がなぜ起きたのか、そして現在のFX市場にも通じる教訓について考えてみましょう。

 

「アジア通貨危機」はタイから

1990年代前半、タイをはじめとする東南アジア諸国は「アジアの奇跡」と呼ばれるほど高い経済成長を続けていました。海外から多額の資金が流入し、不動産や株式市場は活況を呈していました。しかし、その一方で過剰な借り入れや不動産投資が進み、経済には少しずつひずみが生じていました。

 

当時のタイは、実質的に米ドルへ連動させる為替制度を採用していました。しかし、米ドル高が進むにつれてタイ・バーツも割高となり、輸出競争力が低下します。経常赤字も拡大し、市場では「この為替水準を維持することは難しいのではないか」との見方が広がりました。やがて投資家やヘッジファンドによるバーツ売りが強まり、タイ政府は外貨準備を使って防戦しましたが、売り圧力を抑え切ることはできませんでした。

 

通貨危機はなぜアジア全体へ

1997年7月、タイ政府は固定的な為替制度の維持を断念し、バーツを変動相場制へ移行しました。すると市場では、「同じような問題を抱えている国が他にもあるのではないか」との不安が一気に高まります。その結果、インドネシア・ルピア、韓国ウォン、マレーシア・リンギットなどにも売りが波及しました。経済の基礎体力が異なる国まで売られた背景には、市場心理が大きく影響しています。

 

金融市場では、一度不安が広がると、「念のため売っておこう」という行動が連鎖しやすくなります。このような心理的な連鎖は「コンテージョン(伝染効果)」と呼ばれ、アジア通貨危機を象徴する現象の一つとなりました。

 

通貨危機世界経済にも大きな影響

アジア通貨危機は地域の問題にとどまりませんでした。各国は国際通貨基金(IMF)の支援を受ける一方で、財政改革や金融機関の整理など厳しい構造改革を求められました。

 

また、世界の投資家は新興国全体への投資に慎重となり、資金が安全資産へ向かう動きが強まりました。日本企業もアジアとの貿易や投資が多かったことから影響を受け、日本経済にも少なからぬ打撃を与えました。

 

さらに翌1998年にはロシア財政危機や米大手ヘッジファンド「LTCM」の経営危機へとつながり、金融市場の不安は世界規模へ広がっていきました。一つの国で始まった通貨危機が、世界の金融市場を揺るがす出来事へ発展したのです。

 

FX初心者が学ぶべきポイント

アジア通貨危機から学べることは数多くあります。第一に、「通貨の価値は信用によって支えられている」ということです。経済成長が続いていても、市場が「現在の為替水準を維持できない」と判断すれば、売り圧力は一気に強まります。

 

第二に、「市場心理は想像以上に大きな影響を与える」ということです。実際の経済指標だけではなく、不安や憶測によって相場が大きく動く場面も珍しくありません。

 

第三に、「新興国通貨は高い金利だけで判断しない」ということです。高金利は魅力的ですが、政治情勢や財政、外貨準備、対外債務なども重要な判断材料になります。

 

現在でもトルコリラやアルゼンチン・ペソなどが注目される際には、こうした視点が欠かせません。

 

おわりに

アジア通貨危機は、「通貨への信用が失われると、相場は短期間で大きく変動する」という事実を世界へ示した歴史的な出来事でした。

 

現在の外国為替市場でも、新興国の経済不安や財政問題が話題になるたびに、この危機が引き合いに出されます。また、中国経済や人民元の動向が注目される背景にも、「市場は将来のリスクを常に織り込もうとする」という共通点があります。

 

FX初心者の方は、金利や経済指標だけでなく、その国の財政や金融政策、市場心理にも目を向けてみてください。通貨の動きをより立体的に理解できるようになり、ニュースを見る視点も大きく変わるはずです。

 

アジア通貨危機は、「通貨の価値とは何か」「市場が最も恐れるものは何か」を教えてくれる、FXを学ぶ上で欠かせない歴史的な出来事といえるでしょう。

この連載の一覧
第206回 「アジア通貨危機」から学ぶ通貨の信用
第205回 2015年のスイスフラン・ショック
第204回 リーマン・ショックと為替相場
第203回 プラザ合意、なぜ円高に
第202回 中央銀行は市場に勝てるのか
第201回 韓国ウォン急落、28年ぶり1500ウォン台
第200回 業者の「スワップ狙いはトルコリラ」に要注意
第199回 「最強の国」ランキング
第198回 ワールドカップ開催国と通貨
第197回 介入最大規模も、円安止まらず
第196回 日銀6月会合、利上げ実施か
第195回 ドルの基軸通貨の地位、揺るがないか
第194回 米中首脳会談、無難で終了
第193回 円買い介入も円売りポジションの解消進まず
第192回 加ドル、USMCAの見直しも重要なイベント
第191回 弱いのは日本、それとも円?
第190回 原油高・ユーロ安
第189回 ドル円は160円台回復、今後は?
第188回 イラン戦争、中国への影響
第187回 スイスフラン、なぜ強い
第186回 中東情勢に主要通貨の反応
第185回 経常収支の黒字は過去最大も、円安続く
第184回 中国・全人代、3月5日に開幕
第183回 ドル円、ドルの信認低下も重し
第182回 トランプ関税圧力と加ドル
第181回 円相場のカギは日本国債
第180回 2026年世界10大リスク-米調査会社
第179回 25年の中国貿易黒字、初の1兆ドル超え
第178回 金の台頭、ドルの支配に影響
第177回 人民元は堅調
第176回 FRB、来年の政策運営はなお不透明
第175回 円安、結局は再び介入との勝負か
第174回 円安、メリットとデメリット
第173回 実質為替レート 1ドル=270円
第172回 インフレと円安
第171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
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第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
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第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
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第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
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第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
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第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
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第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
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第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
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第72回 日本の貿易収支
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第70回 国際収支と為替(1)
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第68回 FXにも山・谷がある
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第65回 購買力平価説
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第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
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第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
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【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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