個人向け国債「変動10年」の利率が7年半ぶり高水準

個人向け国債「変動10年」の魅力が高まっています。2023年2月発行分の初回金利(半年分)は、年利率0.33%に決まりました。


背景にあるのは、2022年12月に日銀が行なった金融政策のサプライズ修正。以来、長期国債の市場金利は高水準が続いています。新発10年国債の入札結果が0.500%で、2023年8月に支払われる個人向け国債「変動10年」の利率も、7年半ぶりの高水準になったのです。


個人向け国債とは


個人向け国債は国債の一種で、財務省が毎月発行しています。「国債は国の借金」と言われますが、政府が行なう事業の重要な資金源です。公共サービスのために投資家が期限付きで提供するお金で、期限が満了すると投資家に額面金額が償還されます。償還日までの間は年に2回の金利を受け取れるので、資産運用に利用されています。


個人向け国債は、その名の通り、購入できるのは個人に限られています。通常の国債と比べて、個人投資家が利用しやすい特徴になっています。販売窓口は銀行、証券会社などの金融機関。最低1万円から、1万円単位で購入できます。


個人向け国債を償還日前に中途換金したい場合は、通常の国債と異なり、元本割れのリスクがありません。国が額面金額で買い取ります。ただし、中途換金は、発行後1年経過していなければならない、直前に受け取った2回分の手取り利子が差し引かれる、というルールになっています。なお、災害救助法が適用される自然災害の被害者や死亡者は、発行後1年が経っていなくても中途換金が可能です。


また、個人向け国債の利率は、最低でも年0.05%と決められています。市場金利がマイナスだった時期でも、年0.05%を受け取れていました。この最低金利のおかげで、低金利の時期は他の金融商品よりも高い利回りになることが多くなっています。


「固定3年」「固定5年」の金利と「変動10年」の金利


個人向け国債は、期限の違いで3年、5年、10年の3種類があります。これらは、償還までの期限が異なるだけでなく、金利タイプも違います。3年物と5年物は固定金利。発行時に決められた金利が償還まで続きます。10年物は、半年ごとの金利情勢によって利率が見直される変動金利です。


個人向け国債の金利は、「基準金利」を基に、次のようなルールで決まります。


「固定3年」と「固定5年」は、募集期間開始の2営業日前に、市場実勢利回りから計算した3年・5年の固定利付国債の想定利回りを「基準金利」と定めます。この「基準金利」から「固定3年」は0.03%を引いた利率、「固定5年」は0.05%を引いた利率になります。


「変動10年」は半年ごとに利率が見直されます。「基準金利」は10年固定利付国債の入札での平均落札利回りで、その「基準金利」に0.66を掛けた値が個人向け国債「変動10年」の利率です。個人向け国債の利払いは半年ごと。この半年間の前月までに行われた入札結果を「基準金利」とします。なお、発行後最初の利子は、募集期間開始日前に行われた入札が反映されます。


例えば、2023年2月15日に発行される個人向け国債「変動10年」の場合、募集期間は2023年1月10日から31日です。1月5日に10年固定利付国債の入札があり、平均落札利回りは0.50%でした。これに0.66を掛けた0.33%が、個人向け国債「変動10年」の最初の利率です。2023年2月16日から2023年8月15日までは年0.33%で利子を計算し、8月15日に支払われます。8月16日からの半年間の利率は、7月の10年固定利付国債の落札結果を基に決まります。


3種類の個人向け国債の金利について、【表】にまとめました。


金利上昇局面は「変動10年」が有利


【グラフ】は、個人向け国債「変動10年」の金利の推移です。第1回債の初回利子から、2023年8月の利払いまでの利率を示しています。現在、個人向け国債は毎月発行されていますので、既発債のいずれかが毎月利払いを迎えています。



2022年5月の利払いまでは、長いこと最低利率の年0.05%が続いていました。6月は適用利率が年0.11%に上昇。2023年8月の利払いは、前述の通り年0.33%に決定しています。


また、2016年10月から2017年6月までと2019年9月から2020年10月までは、「基準金利」がマイナスや0.00%になっていましたが、その間も個人向け国債は年0.05%の最低利率が適用されています。


今後、日銀が金融政策を見直しがあるとすれば、長期金利は上昇し、個人向け国債「変動10年」の利率も連動して上昇します。資産価値が上下する株式や株式投資信託は苦手だと考える人や、ポートフォリオ内で元本割れをしたくない資金の運用先として、検討に値するのではないでしょうか。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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