気になるテーマ解説

ありそうでなかったTOB(株式公開買い付け)狙いの投信が登場

投資信託の歴史は長く、世界で最初の投資信託は1868年にイギリスで設立されたといわれます。日本で最初に始まったのは1941年。野村証券が国内で初めて投資信託業務の認可を受け、そこから84年が経過。日本国内ではさまざまな投資信託が販売されています。


時代の流れとともに人気となる投資信託も移り変わっていますが、昨今では経営に踏み込んでいくスタイルの投資信託も出始めており、多様化がより進んでいる印象です。そのようななか、2月28日にファイブスター投信投資顧問より「資本効率向上ファンド」の運用が開始されました。


特色は「親子上場解消などを背景として他社からのTOB(株式公開買い付け)の可能性の高い銘柄に着目した投資を行います。(原文ママ)」としており、愛称も「TOBハンター」とド直球です。とても興味をそそられるファンドが立ち上がったので、今回はTOBを中心に取り上げていきたいと思います。


増えるTOB

TOBは日本語で「株式公開買い付け」というように、とある上場企業を1株いくらで市場から買い取る手段です。主に、対象企業を子会社化したり、株式を非公開化することで経営立て直しをスムーズに実行することが理由として挙げられます。TOBの成立後は、対象企業が上場廃止となるケースが多いです。


ちなみにTOBが実施される場合は、時価に対してプレミアム(上乗せ)がつけられることが大半を占めます。時価が1株1000円だったとしたら、1300円で買い取るといったような感じです。プレミアムを付けてTOBを行うことで、株主に応募してもらいやすくするためですね。


昨今ではTOBの発表数が増えています。東証による市場改革の影響もあり、安くないコストを支払うくらいなら非公開化しようといった動きが増えてきました。業界再編による同業の買収、非効率な親子上場の解消なども理由に挙げられます。


ちなみに、2025年も1~2月だけで数多くのTOBが発表されました。


※弊社作成 自己株式の公開買い付けを除く


これらを数えてみると29社。今年が始まってからまだ2カ月ちょっとしか経過していませんので、平均すると2日に1社のペースでTOBが発表されていることになります。自分が持っていた銘柄がまさかのTOBとなった人も少なくないでしょう。


ちなみに東京証券取引所の上場会社数は3月4日時点で3960社もあり、札幌証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所の3取引所合計で100社ほどあります。国内では総数4060社ほどが上場していることになるので、まだまだTOBの可能性がたくさんありそうですね。なお、直近10年のTOB案件数を並べてみると以下のようになります。


 

出所:資本効率向上ファンド 交付目論見書を基に弊社作成


今後の運用成績は?

最初のほうに取り挙げた「資本効率向上ファンド(TOBハンター)」は運用が始まって間もないため、目に見えた運用成果は出ていません。目論見書を参照すると主な投資対象は「親子上場にある銘柄」「持分法適用関係にある銘柄」となっており、TOBの可能性が高いと見込む500~600社の中から最終的に組み入れる銘柄数は約50~150社とのことです。


前述したプレミアムは過去10年平均で34%とのこと。ファンドでは複数銘柄に分散投資するため、組み入れ銘柄のTOBが発表された場合であっても基準価格が3割上昇するわけではありません。とはいっても1銘柄の上昇率が非常に大きいため、見込みが的中すれば大きなリターンが期待できそうです。


TOB期待銘柄に投資するのは一種のテーマとなっています。同ファンドが今後公開する月次レポートや運用報告書にはどのような銘柄が並ぶのか、TOB狙いで投資する場合はぜひ参考にしたいところです。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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